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25年前、ダンスサウンドを捨てて魅せた“80万の衝撃” “脆さと強さ”で大ヒットしたワケ

  • 2025.12.8

「25年前、あの冬の空気を覚えてる?」

年が明けたばかりの街には、まだ冷たい息が残っていた。夜更けのコンビニ帰り、白い吐息がふっと立ちのぼった瞬間に、ふと心の奥にあのメロディが蘇る、そんな経験がある人も少なくないだろう。

2001年の幕開け、日本中をそっと包み込んだ透明なラブソングがあった。

Every Little Thing『fragile』(作詞:持田香織・作曲:菊池一仁)――2001年1月1日発売

ランキング初登場から2週連続1位を記録し、最終的には80万枚以上を売り上げたこの曲は、フジテレビ系列『あいのり』の主題歌としても強く焼きついている。どこか切なく、それでいて前へ歩こうとする気持ちが、当時の日本の空気と静かに重なっていた。

静かな夜に宿った、ELTの“新しい季節”

1990年代後半のEvery Little Thingは、アップテンポなダンスサウンドでシーンを席巻していた。その勢いに乗ってスタートした2000年代、彼らの音楽には少し“変化の風”が吹き始める。『fragile』は、そんな転換期のただ中に生まれた楽曲だった。

作詞を担当した持田香織の声は、年を重ねるごとに丸みを帯び、より繊細な感情を映し出すようになっていた。そのボーカルに寄り添うように、菊池一仁が描いたメロディは、まっすぐでありながらどこか儚い。

誰かを想う気持ちが、嬉しさと痛みを伴って押し寄せてくるような“冬の静けさ”が、この曲全体をやさしく包んでいる。

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2002年、日本レコード大賞でのEvery Little Thing(C)SANKEI

“fragile”が宿す、壊れそうで壊れない強さ

この曲の魅力は、派手な展開や大きな高揚ではなく、静かに寄り添うような温度感にある。

アレンジは、華美になりすぎず、それでいて心の輪郭をそっと撫でるような余韻を残す。持田の透明感ある声は、その余白の中でいっそう際立ちながら、リスナーに深い共感を運んだ。

メロディラインは、感情がじわじわと胸の奥に染み込んでくる。特にサビに向かう流れで、ひとつ息を飲むような“耐える強さ”が浮かび上がり、恋の脆さとまっすぐさを同時に抱えたような感覚を呼び起こす。

“あいのり”が生んだ、もうひとつの記憶

『fragile』を語る上で欠かせないのが、やはり『あいのり』の存在だろう。番組で流れるこの曲は、旅の終わりや気持ちのすれ違いといった、視聴者の“切ない記憶”をそっと照らしていた。

当時の恋愛リアリティ番組としては異例の人気を誇っていた『あいのり』は、10代から20代の若い世代を中心に支持され、毎週欠かさず見ていたという人も多い。その中で流れ続けた『fragile』は、番組の“もうひとつの主題”である“誰かを想う痛み”を象徴する楽曲として広く定着していった。

ランキングでの2週連続1位や80万枚以上のセールスは、ELTの人気はもちろん、こうした時代背景と番組との相乗効果が生んだ結果でもあった。

時代が変わっても、冬が来るたびに思い出す歌

2001年のリリースから25年。音楽の聴き方はシングルCDからサブスクへと移り変わり、街の音も、恋の形も、そして“当たり前”の基準さえ変わった。それでも『fragile』は、冬の空気を思い出すように、静かに再生され続けている。

あの年の冬を思い出す人も、初めて触れる人も、きっと同じ温度で胸が締めつけられる。音楽が時代を超えるとは、こういう瞬間のことを言うのかもしれない。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。