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27年前、“異端のピンクロック”が放った100万の衝撃 遊び心でミリオンヒットしたワケ

  • 2025.12.14

季節の変わり目の湿った風。深夜の街を照らすネオンの粒子。平成が勢いを加速していた98年の春は、どこかざわついていて、落ち着かない空気が漂っていた。

そんな時代の隙間を、ひとつのロックナンバーが貫いた。衝撃と熱量と、説明のできない高揚感。そのすべてが、リリースされた瞬間に駆け抜けたのだ。

hide with Spread Beaver『ピンクスパイダー』(作詞・作曲:hide)――1998年5月13日発売

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1997年、X JAPAN解散ライブでのhide(C)SANKEI

破裂するように広がった“色と衝動”

hide with Spread Beaver名義としては2枚目のシングルとなったこの曲は、ランキングで初登場から2週連続1位を獲得し、100万枚以上を売り上げた。数字だけを並べればヒットソングの常道だが、この曲が放った衝撃は、単なるヒットの表現では収まりきらない。

イントロから飛び散るようなギターリフ、疾走するビート、視界を塗り替えるようなサウンドの鮮烈さ。hideらしい遊び心と反骨精神が共存し、“ロックの自由さ”を全身で体現するように鳴り響いていた。

聴いた瞬間に胸の奥を鷲掴みにされるこの“高揚感”こそ、当時の若者たちが夢中になった理由だった。

サウンドに宿った“異端の美意識”

『ピンクスパイダー』の音の中心にあるのは、hideが長年磨き続けた“色彩感覚”だ。歪んだギターとシンセの質感が混ざり合い、ロックの定型に収まらないサウンドを構築している。それは激しさだけではなく、どこかポップで、親しみやすさすらある。

Spread Beaverのメンバーによる生々しい演奏が、hideの鋭いメロディと溶け合い、曲全体に独特の立体感を生み出していた。

カオスのようでいて、輪郭ははっきりしている。攻撃的でいながら、どこか切ない。そんな二面性が、この楽曲を唯一無二の存在に押し上げている。

時代が求めた“爆発力”

1998年という年は、音楽シーンが大きく揺れ動いた時期だった。デジタルとアナログ、バンドと打ち込み、J-POPとロックの境界が一気に曖昧になりつつあった。そんな中で『ピンクスパイダー』は、カテゴライズ不能な魅力をそのまま武器にした

hideが歩んできたビジュアルロックの文脈と、90年代後半のJ-POPのうねり。その2つの潮流が爆発的に混ざり合い、“ジャンルを超えた時代の象徴”としてこの曲を浮上させたのだ。

枠にとらわれない創造性こそが、当時の音楽ファンの心を強くとらえた。

その音は、今も心を撃ち抜く

発売から27年。音楽の聴かれ方が大きく変わっても、『ピンクスパイダー』が放つ衝撃は薄れない。むしろ今の時代だからこそ、その自由さ、奔放さ、そして孤高の存在感がより鮮明に響く。

あの春、誰もが胸の中に抱えていた“モヤモヤした未来への不安”や“爆発しそうな衝動”。その輪郭を音として刻みつけたのが、この一曲だった。

聴くたびに胸の奥で何かがざわつき、またどこかへ飛び出したくなる。その感覚こそが、この曲の永遠の魅力だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。