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27年前、CMソングとして届いた90万ヒット 春リリースなのに“真夏の歌”になったワケ

  • 2025.12.14
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2024年、映画『まる』公開記念舞台挨拶に出席した堂本剛(C)SANKEI

「27年前、あの海風の匂いって、どんな音をしていたっけ?」

まだ春の肌寒さが残る4月の街を歩いているのに、ふと胸の奥に夏の気配が立ちのぼる瞬間がある。駅のホームに差し込む光、制服の袖を揺らす風、放課後のざわめき。季節は確かに春なのに、心だけは先に“夏の入口”へ駆け出していた。

そんな“気持ちのフライング”を、誰よりも鮮やかに代弁した1曲がある。

KinKi Kids『ジェットコースター・ロマンス』(作詞:松本隆・作曲:山下達郎)――1998年4月22日発売

光りながら駆け抜ける青春の加速感。まだ夏じゃないのに、まるで海に飛び込んだような解放感。春のリリースなのに“真夏の歌”として定着した理由は、当時の空気にしっかり根を下ろしている。

『ジェットコースター・ロマンス』はKinKi Kids(現・DOMOTO)の3枚目のシングルで、彼らが出演したANA『パラダイス沖縄』キャンペーンCMソングとして多くの人の耳に届いた。

ランキング初登場1位、セールスは90万枚以上。デビュー曲『硝子の少年』と同じ松本隆×山下達郎コンビということもあり、「彼らの青春ポップス像」を強く印象づけた1曲でもある。

海まで連れていく“あの光の匂い”

本作の音は、ひとことで言えば“光が跳ねる”。山下達郎による爽やかで立体的なメロディラインは、イントロの一音だけで視界を明るくしてしまうほどの開放感を持っている。

さらに船山基紀の編曲が、その明るさに奥行きを与える。ストリングスやブラスが重なりながらも決して重くならず、風通しがよく、空へ向かってすっと伸びていく。まるで、海岸沿いを走る車の窓から入り込んでくる潮風のような広がり方だ。

歌う2人の声は、年齢以上の落ち着きと、少年らしさのバランスが絶妙だった。“大人になりきれないまま、でも確かに前へ進んでいく感じ”が、声の中に自然と宿っていた。その曖昧さこそ、青春そのものだったのだと思う。

「夏が来る前の夏」を作った曲

興味深いのは、この曲が“夏ソング”として語られながらも、実際の発売は4月という点だ。本番の夏がやって来る前に、すでに心のスイッチを夏へ切り替えてしまう、そんな効果がこの曲にはあった。

当時のミュージックビデオで、沖縄の海ではしゃぐ剛と光一の姿は、まさに“夏の象徴”だった。制服姿の学生も、仕事帰りの大人も、あの映像を見れば一瞬で沖縄の陽射しへ連れていかれた。

その影響力は絶大で、当時の若者たちは海に行けば自然と“ジェットコースター・ロマンスごっこ”をしていたと言われるほど。「MVと同じ海の色を見たい」という気持ちが、夏の記憶そのものをつくっていた。

松本隆×山下達郎コンビが描いた“恋の疾走感”

作詞は松本隆。繊細な情景描写と、軽やかに心を押し出すような言葉選びが、恋のときめきを過不足なくすくい取っていた。

作曲は山下達郎。達郎サウンド特有のリズムの跳ね方、胸の奥が少し熱くなるコード進行が、この曲をただの“明るいポップス”に留めなかった。

デビュー曲『硝子の少年』に続いて同じコンビが担当したことは、KinKi Kidsの音楽的方向性を決定づける大きな意味を持っている。アイドルでありながら、当時のJ-POPシーンの中でひときわ高いクオリティの作品を歌っていた。その印象は、この曲でさらに強まった。

あの日の風は、今も吹き続けている

『ジェットコースター・ロマンス』は、恋の歌であり、青春の歌であり、季節の歌でもある。しかもどれか一つに固定されず、聴く年齢や時期によって見える景色が変わる稀有な曲だ。

“あの頃の自分がもう一度走り出す感じ”が、今でもリスナーの胸を軽く揺らしてくる。

季節は巡るけれど、あのイントロが流れた瞬間、海の匂いも、光の強さも、胸が弾むような気持ちも、鮮明に戻ってくる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。