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15年前、NHK朝ドラからロングヒットを記録した“朝のメロディ” 「気づけば口ずさんでいる」ワケ

  • 2025.12.18

「15年前、あの朝の空気ってどんな匂いがしていたっけ?」

通勤前のバタバタした時間。湯気の立つコーヒー、まだ眠たげな街の音。そんな日常の隙間から、ふわりと流れてきた曲があった。派手でも劇的でもないのに、なぜか胸の奥を温めてくれるような歌だ。

いきものがかり『ありがとう』(作詞・作曲:水野良樹)――2010年5月5日発売

NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』主題歌として放送され、ロングヒットを記録した。

静かな朝に灯った“確かな存在感”

この曲が世に出たのは、2010年。通勤途中のラジオや朝ドラの主題歌として、「毎日同じ時間に同じ曲を耳にする」という体験がまだ生きていた時代だった。

いきものがかりは、『SAKURA』など静かな情緒をたたえた楽曲でも強い存在感を放っていた。その中で『ありがとう』は、“生活に寄り添う温度”がより前面に出た作品として、グループの幅広さを改めて示した一曲といえる。

派手な盛り上がりではなく、“日常の呼吸”のような穏やかさを大切にしたサウンドが、朝ドラという舞台とも自然に響き合っていた。

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2009年、「ポッキー&プリッツの日」記念イベントに登場した いきものがかり(C)SANKEI

心に沁み込む“そっと寄り添う音”

『ありがとう』の魅力の核は、聞く人の感情を無理に揺らさず、ただそばで呼吸するような優しさにある。

水野良樹が描くメロディは過度な高揚を避け、どのパートも穏やかに流れていく。そこに吉岡聖恵の透明で芯のある歌声が乗ることで、感情を押し付けない“寄り添うかたちの温度”が生まれている。

バンドサウンドも決して主張しすぎない。アコースティックギターの柔らかさ、ストリングスの控えめな盛り上がり、そして歌を邪魔しないリズム。すべてが、朝ドラという“毎日の生活の中にある時間”にぴたりと寄り添うように設計されていた。

だからこそ、この曲は派手なインパクトではなく、「気づけば覚えている」「気づけば口ずさんでいる」という、生活に染みこむような広がり方をした。

朝ドラ主題歌としての役割とロングヒットの理由

NHK連続テレビ小説『ゲゲゲの女房』は、素朴であたたかな家族の物語だった。そこに流れる『ありがとう』は、物語の空気を損なわず、むしろ作品の“生活者の視点”を増幅させていた。

発売後は長期間にわたりチャートの上位に入り続け、まさに“ロングヒット”の象徴のように愛されていく。

タイアップ効果だけではなく、曲そのものが持つ「人と人のつながり、誰かと生きるという日常の奇跡」という普遍的なテーマが、多くの人の心を掴んで離さなかったからだ。

いきものがかりの楽曲はキャッチーさや元気さで語られることも多い。しかし『ありがとう』は、彼らのもう一つの魅力である“生活と心に根ざす歌”として、時を経ても愛され続けている。

時代が変わっても、変わらない“ありがとう”の重み

あれから15年。朝の風景も、音楽の聴き方も、私たちの生活も大きく変わった。それでも『ありがとう』が流れると、あのときの朝の匂いや、画面越しの温かさ、誰かの笑顔や頑張りを思い出したりする。

「誰かを思い浮かべるだけで、胸が少しあたたかくなる」

そんな、言葉にできない感情をそっと支えてくれる曲だ。時を超えて愛されるとは、こういうことなのだろう。派手でも劇的でもない。ただ、長く長く心に寄り添い続ける。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。