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19年前、俳優デュオが歌った“距離5センチの名曲” 不器用な優しさとは

  • 2025.12.17

「19年前の冬、どんな景色を見ていたか覚えてる?」

白い息がふわりと漂う街角で、誰かと肩を並べて歩くあの瞬間。ぎこちない距離、でも離れたくない温度。そんな感情を思い出させてくれる曲が、確かにあの季節にはあった。

WaT『5センチ。』(作詞・作曲:WaT)――2006年1月25日発売

木枯らしが路地を抜けていくような静けさの中で、ふたりの歌声はやわらかい明かりのように響いていた。大げさなサウンドではなく、手触りのあるアコースティックギター。その音色が、冬の透明な空気とどこか似ていて、気づけば心の奥まで染み込んでいったのだ。

触れそうで触れない“距離”を歌にしたふたりの物語

『5センチ。』は、WaTにとってメジャー2作目のシングル。ウエンツ瑛士と小池徹平という、俳優としてもタレントとしても知られる存在が、あえて“等身大のデュオ”として勝負した時期だった。

自作曲で挑む彼らの姿勢は、アイドルでもなくバンドでもない、独特の立ち位置を確立していく。ふたりが手がけたこの楽曲には、作り込んだ派手さはない。むしろ、素直すぎるほどまっすぐで、言葉の間にある“沈黙”まで音になっているような、不思議な余白が漂っている

そしてその距離感こそが、当時の若い世代の気持ちを静かに掴んでいた。「あと少しだけ近づきたい」という、誰もが抱えた経験の輪郭を、ふたりの歌声がやさしくなぞっていたからだ。

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2004年、神奈川・横浜ベイホールで初コンサートをおこなったWaT(C)SANKEI

アコースティックに宿る、静かな熱量

『5センチ。』の魅力の核にあるのは、アコギ主体のサウンドが持つ“温度”だ。弦をはじくニュアンスまで感じ取れるような録音は、冬の静けさに寄り添うように鳴り続ける。

質感の異なるふたりが、同じメロディを重ねる瞬間には、歌でありながら会話のような親密さがある。特にサビでのユニゾンは、主張しすぎず、かといって埋もれもしない。“距離5センチ”のバランスで揺れるハーモニーが、この曲に特別な空気を与えていた。

音楽的には極端な起伏を設けず、メロディの美しさをそのまま届けるような構成。だからこそ、聴いた人の胸の中に、その日の温度や景色が勝手に蘇ってくるのだろう。

冬の透明な空気ごと、思い出になる曲

この曲でWaTは『第57回NHK紅白歌合戦』への2回目の出場を果たした。まだ大舞台に慣れきっていない表情のまま、でも精いっぱいに歌う姿は、当時のテレビ越しでも強く心に残った。

華やかなステージに立ちながらも、どこか“街角のデュオ感”を失わなかったふたり。その素朴さが、むしろ多くの視聴者に響いていった。派手なパフォーマンスや大編成のサウンドが並ぶ中で、アコギを抱えて歌うWaTは、ひとつだけ違う時間を流していたようにも思える。

誰かとの間にある距離が縮まる瞬間のあの温かさ。逆に、縮まらないままそっと心に残る切なさ。そういう言葉になりにくい“揺れ”を、この曲はそっと包み込んでいる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。