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“転換期”から27年、人気バンドが冬に灯した“小さなときめき” 新体制ながら80万枚を獲ったワケ

  • 2025.12.17

「27年前、冬の街はどんな風にきらめいていたっけ?」

冷たい風が頬をかすめ、ビルのガラスに映る光が少しだけ滲んで見える季節。通勤電車の窓も、放課後の商店街も、どこか急ぎ足で、それでも心の奥には小さな期待が灯っていた。

そんな“冬の空気そのもの”を閉じ込めたような1曲が、あの季節の記憶を今も鮮明に呼び起こす。

L’Arc〜en〜Ciel『winter fall』(作詞:hyde・作曲:ken)――1998年1月28日発売

この1曲は、バンドにとって大きな転機の“始まり”を告げた作品だった。ドラムのyukihiroが正式加入してから初めて放たれたシングル。冬景色の中にスピードと華やかさを同居させたこの楽曲は、当時の音楽シーンを一気に駆け抜けていった。

まばゆい季節へ向かって走り出す“冬の風景”

『winter fall』というタイトル通り、この曲には“冬にしかない明るさ”が宿っている。

氷の粒のようにきらめくギター、ドラムンベースのように軽やかに跳ねるドラム、そしてストリングスやブラスが広がりを与え、冬特有の透明感と華やぎを同時に描き出す。

冒頭のhydeの歌いだしから一瞬で空気が変わり、冷たさよりも“光”が先に飛び込んでくるような感覚だ。

yukihiro加入後初のシングルということもあり、リズムのキレは鋭く、全体のサウンドがスピードを帯びている。それでいて、hydeの声はやわらかい色を保ち、“冷たさの中にも確かな温度がある冬”を思わせるバランス感が絶妙だった。

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1998年、横須賀芸術劇場で行われたL’Arc〜en〜Cielライブより(C)SANKEI

音の華やぎに秘められた、“滑らかなドラマ性”

この曲の核にあるのは、kenが描いたメロディラインの流動性だ。Aメロからサビまでのつながりが自然で、気づけば景色が大きく開けていくような構成になっている。ストリングスとブラスは単なる装飾ではなく、曲の情感を押し上げる“季節の演出”として機能し、冬の空に光が走るようなスケール感を生み出した。

hydeのボーカルもまた、この曲を独自の冬景色へと導いている。言葉一つひとつの温度が絶妙に揺れていて、疾走感の中に柔らかい息づかいが宿る。その声が、冬の街を歩くときにふと感じる“胸の奥の小さなときめき”と自然に重なっていく。

1998年という“転換期”を象徴する存在

この曲はランキング初登場1位を記録し、およそ80万枚以上を売り上げた。勢いのあるバンドが新たなフェーズに突入した瞬間を象徴する数字でもある。そして何より、この曲が示したのは“音楽性の広がり”だった。

ストリングスやブラスを大胆に導入したアレンジは、ロックの枠を軽々と越えながらもバンドの芯を失わず、その後の作品群に繋がる道を切り開いている。

冬の記憶をやさしく照らす一曲

『winter fall』を聴くと、その年の冬がふっと蘇る。雪が降っていた日でも、晴れた寒空でも、胸の奥に灯る“前に進みたい気持ち”が鮮やかに息を吹き返す。

疾走感があるのに、どこか包み込むようなやさしさがある。その余韻が、今も多くのリスナーにとって冬の象徴となり続けている理由だ。

季節が巡るたび、hydeの歌いだしとともに思い出す景色がある。27年前の冬に吹いた風が、今も変わらぬ輝きで胸の中に残り続けているのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。