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20年前、“艶と硬質さ”が共存した“連帯の衝撃” アーティスト同士が衝突した“緊張と官能”

  • 2025.12.9

「20年前の冬、クラブ帰りの空気って、どんな匂いがしてたっけ?」

軽く冷たい風に混ざる香水の甘さ、夜更けのテンションのまま街を歩くあの感じ。携帯の画面はまだ小さく、SNSも今ほど騒がしくなかった頃。音楽はもっと“体で感じるもの”で、ビートの強さがそのまま気分の強さに直結していた。そんな2005年の年末、ひときわ挑発的な光を放った一曲がある。

倖田來未 feat. SOULHEAD『D.D.D.』(作詞:SOULHEAD・作曲:SOULHEAD、OCTOPUSSY)――2005年12月21日発売

12週連続シングルリリースの第3弾として登場したこの曲は、彼女の勢いを象徴するだけでなく、当時の女性アーティスト同士の“対等な衝突”を音として刻んだ稀有なナンバーだった。

研ぎ澄まされた冬の空気に走った“緊張と官能”

『D.D.D.』は、倖田來未のセクシー路線が確立されつつあった時期にリリースされた。だが、この曲はただのセクシーでは終わらない。SOULHEADがサウンドプロデュースまで手がけ、さらにフィーチャリングとして参加していることで、ふたりのアーティストが“同じ温度で殴り合う”ような緊張感が生まれている。

SOULHEADは当時、R&B・ヒップホップ界で確固たる地位を築き、英語詞と日本語詞を自在に操るスキルフルな姉妹ユニットとして知られていた。その彼女たちが倖田來未の世界に乗り込んできたことで、この曲には“刺激的なケミストリー”が満ちている

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「MTV VIDEO MUSIC AWARDS JAPAN 2006」に登場した倖田來未(C)SANKEI

奔放で硬質なビートが生む“対等な存在感”

ダンスホール的なアタック感のあるビート、深く沈むようなベースライン、シャープに切り込むシンセ。サウンドは非常にタイトで、隙間をあえて作ることでボーカルの存在感を際立たせる構成になっている。

倖田來未の声は艶がありながら、どこかワイルドで自由。一方、SOULHEADの低音域のラップやコーラスは、芯の強さとクールな質感をまとっている。

この二つの個性がぶつかり合い、「主役・ゲスト」というより、“戦う同士”のようなフラットな関係性が際立つ。それがこの曲を単なるコラボ曲ではなく、“一つの事件”のように感じさせる理由だ。そしてサビに向かうほど、ふたりの声が絡み合い、溶け合う。聴く側の体温まで連れていかれるような、一種の興奮状態を生んでくれる。

冬の街で鳴り響いた“女の強さのビート”

この年倖田來未は、12週連続でシングルをリリースするという前代未聞のプロジェクトを行っていた。リリースを重ねるにつれ期待値は高まり、その中で第3弾『D.D.D.』は、“企画”ではなく“作品”として手抜きのない仕上がりを見せている。

強がっているわけでも、飾っているわけでもない。ただ、自分の“強さ”に素直でいたい。そんな女性たちがこの曲に自然と心を重ねた。

2005年の冬。街のイルミネーションのきらめきと、耳にかすかに残る冷たい風。そこに重なるように『D.D.D.』のビートが鳴り響くと、誰もがほんの少しだけ勇敢になれた。

挑発的で、硬質で、だけどどこかしら甘い余韻が残る。音のひとつひとつが、夜の街の光と影を映し出すようだった。今聴き返しても、あの頃の“空気の匂い”がふっと蘇るのは、きっとこの曲が女性アーティストたちの“連帯と対峙”を最も美しく刻み込んだ1曲だからだ。

強さとしなやかさが同居した冬のダンスチューン。『D.D.D.』が20年経ってもなお輝きを失わない理由は、きっとそこにある。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。