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20年前、“命がけの愛”を歌った若さの衝動 “特異なラブソング”が胸に響くワケ

  • 2025.12.4

「20年前の自分って、誰かをどれくらい本気で好きだった?」

2005年の冬。街には携帯電話の光が揺れ、メッセージひとつの間に“沈黙の時間”が確かに存在していたころ。想いは今のように即座に既読がつかないぶん、届くまでに積もる“熱”があった。そんな時代に、ひとつのバンドがメジャーの扉を開き、世の中に投げ放ったのは、ただの恋では到底おさまりきらない、あまりに純度の高い愛の歌だった。

RADWIMPS『25コ目の染色体』(作詞・作曲:野田洋次郎)――2005年11月23日発売

染色体は22対と性染色体1対。それに“ハッピー運”と“ラッキー運”を足して“25個”。そんな遊び心の中に、美しい想いが詰め込まれていた。

恋のはじまりにある、“名前のない熱”

RADWIMPSにとって、メジャー1stシングルとして放たれたこの曲は、派手さよりも“内側の熱”が先に立つ作品だった。

野田洋次郎の声は、最初から最後まで語りかけるように近い。遠くの相手ではなく、“すぐ隣にいるたったひとり”だけに向けられたような距離感で歌は進む。そこに漂うのは、単純な「好き」でもない。かといって悲壮な愛情でもない。誰かを思うときに胸の奥で勝手に生まれてしまう、名前のない熱そのものだった。

10代から20代へと向かう途上の、どうしようもなく真っ直ぐで、むき出しで、壊れやすい感情。それをここまで正確に音にした作品は、当時のシーンを探してもそう多くはなかった。

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2017年、映画『東京喰種 トーキョーグール』大ヒット御礼舞台挨拶に登壇した野田洋次郎(C)SANKEI

“命をかけるほどの愛”を歌う、若さの衝動

『25コ目の染色体』の核心には、「自分のすべてを差し出してでも、あなたを守りたい」という圧倒的な意志が流れている。

一見すると重すぎるようにも思えるが、若さの持つ衝動と純粋さがその言葉を成立させてしまう。たったひとりの存在が、自分の“生きる意味”を形づくってしまうような恋。それは大人になるほど遠ざかっていく感情だが、だからこそ聴く者の胸に焼きつく。

「あなたがいるから僕は生きる」という想いをここまで正面から描いた楽曲は、ラブソングの中でも特異だ。恋に全力でぶつかっていく若さの姿が、聴くたびに痛いほど胸に響く。

穏やかなアレンジが、言葉をさらに鋭くする

特徴的なのは、サウンドが過剰に盛り上がらないことだ。ギターもドラムもざらつきを抑え、言葉と気持ちをそっと包むように鳴っている。その“静けさ”こそが、歌の強さをより際立たせている。

野田洋次郎の息づかい、声の揺れ、語尾のかすかな震え。それらがそのまま楽曲の表情になっていて、まるで心の内側をそのまま差し出しているかのような近さがある。愛の言葉を叫ぶのではなく、静かに、でも決して揺るがずに語る。その誠実さこそが、この曲の魅力そのものだった。

“25個目”という空想が照らす、恋の真ん中

タイトルにある“25コ目”は、現実には存在しない染色体だが、この設定が曲の世界観を豊かにしている。

もし染色体がもうひとつあったら、その追加分は、きっと“運命”や“願い”のような、人間の感情では説明できない何かだ。歌の中にはその“追加分”に込められたような、言葉にならない想いが息づいている。

愛と命と願いが渾然一体になり、それらを区別しないまま相手に向かっていく感情。それはまさに“25個目”にふさわしい、特別な輝きを放っていた。

なぜこの曲は、いま聴いても胸を締めつけるのか

20年が経った今でも、『25コ目の染色体』は古びない。むしろ、恋を大人の距離で扱うようになった私たちにとって、この曲のまっすぐさはより鮮烈に響く。

「誰かを愛するって、こんなに痛くて、こんなに優しいものだった」

そんな記憶をそっと呼び起こす。あの頃の恋の強度、世界が相手ひとりで満ちていたあの感覚。それを思い出させてくれる、数少ない“究極のラブソング”のひとつだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。