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20年前、アジアのスターが放った“言葉にできない想い” 流行とは無縁で響いたワケ

  • 2025.12.3

「20年前の冬、誰とどんな景色を見ていたか、覚えてる?」

雪が夜の街を静かに照らす季節になると、ふと胸の奥が震える瞬間がある。2005年の年末、日本のドラマ文化や音楽シーンには、どこか“淡い光”が差し込んでいた。

その頃、韓国ドラマ『冬のソナタ』でキム・サンヒョク役を演じ、一躍アジアのスターとなったパク・ヨンハが、ひとつの美しいバラードを届ける。どこか不器用で、誰よりも真っ直ぐな“サンヒョクの面影”を残したまま、優しく語りかけるように。

パク・ヨンハ『Truth』(作詞:松井五郎・作曲:玉置浩二)――2005年12月21日発売

『冬のソナタ』の大ブレイクを受け、彼の存在は一気に広がった。熱狂的な人気だけでなく、「どこか放っておけない温度」を持つ俳優としての佇まいが、日本でも深く愛された理由だった。サンヒョクという役の“影を抱えた優しさ”の雰囲気は、パク・ヨンハ自身の歌声にも自然と重なっていた。

冬の静けさに溶け込む、儚い呼吸

『Truth』は、松井五郎の繊細な言葉の世界に、玉置浩二による美しく澄んだメロディが重なることで、柔らかくも深い余韻を残す楽曲になっている。玉置浩二が作るバラードは、どれも“心の温度”をそっと揺らす力を持っているが、この曲はとりわけ抑制が効いており、無理に泣かせようとしない。その分、聴く側の感情が静かに浮かび上がってくる

パク・ヨンハの歌声は派手な技巧に寄らず、風景のように淡々と並ぶ旋律に合わせて丁寧に言葉を置いていく。その声質は、冬の街の“深夜の白い吐息”のようで、聴いているとゆっくりと胸の奥の痛みがほどけていく。

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2005年3月、来日したパク・ヨンハ(C)SANKEI

流行とは無縁の、誠実なバラード

リリース当時の音楽シーンは、ダンスナンバーやR&B、エレクトロ寄りのポップが存在感を見せていた。華やかなサウンドが多い中で、『Truth』は明らかに異質だった。

静かで、丁寧で、どこまでも誠実。玉置浩二が描く美しい音の変化は、派手さとは真逆だが、その分だけ曲の“体温”がゆっくり伝わってくる。パク・ヨンハの声との相性も驚くほど良く、彼の持つ少し曇った優しさが、メロディの余韻を一層深くしていた。

当時、彼は俳優業だけでなく音楽活動も本格化させ、アジア全域でツアーを行うなど、多忙ながらも真摯に作品と向き合っていた。この曲にもその姿勢が表れており、どのフレーズにも“人を大切にしようとする手触り”が確かに宿っている。

雪が降る夜に、そっと灯りをともす一曲

『Truth』を聴くと、不思議と“言葉にできなかった気持ち”が静かに整理されていく。冬の夜にふと胸が寂しくなるのは、きっと誰かを大切に思っていた証なんだと思える瞬間がある。この曲はまさに、そんな“沈黙の温度”を抱いたバラードだった。

今もなお、多くのファンがこの歌を冬になると思い出してしまうのは、パク・ヨンハがスクリーンやテレビの向こうに残した“誠実なまなざし”が、この曲にもそのまま刻まれているからだ。雪の降る街を見つめていたあの冬の記憶が、そっと胸の奥で息を吹き返す。

20年前のあの季節に響いていた静かなロマンティックは、今もなお、誰かの心を静かに照らし続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。