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25年前、切なさが弧を描く“淡色のロックバラード” 感情の底で光った“儚い衝動”

  • 2025.12.2

「25年前のあの春、どんな風が吹いていたか覚えてる?」

桜の色づきと同じくらい、街じゅうに“新しい季節の匂い”が漂っていた2000年の初春。景気の明るさは戻りきらず、それでも人々はどこか前を向きたくて、静かに息を整えていた。夕暮れの電車に揺られながら、胸の奥の言葉にまだ輪郭がないあの感じ。そんな曖昧さと希望のあいだをすくい取るように、耳に落ちてきた一曲があった。

LUNA SEA『gravity』(作詞・作曲:LUNA SEA)――2000年3月29日発売

テレビ朝日系ドラマ&映画『アナザヘヴン』の主題歌として発表されたこのシングルは、ランキング初登場1位を獲得。活動を重ね、大人になったバンドが見せた“静かに熱い”瞬間が刻まれていた。

かすかな光を追いかけるように

『gravity』はLUNA SEAにとって12枚目のシングル。楽曲のベースはギターのINORANによってつくられ、彼ららしい“集合体としての音”が立ち上がっている。

LUNA SEAのイメージといえば、鋭さや緊張感、濃密な世界観を思い浮かべる人も多い。だが2000年当時の彼らは、結成から十数年を経て、バンドとしての成熟と変化が顕著になっていた時期だった。

その中で生まれた『gravity』は、決して激しく叫ばなくても届くバラード。大きな爆発を起こさず、淡い色合いのまま心の深部に触れてくるタイプの楽曲だった。

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2025年、レシピブック『INORAN KITCHEN』発売イベントをおこなったLUNA SEAのギター・INORAN(C)SANKEI

LUNA SEAの“柔らかさ”が滲む瞬間

この曲の魅力の中心には、サウンドの“丸み”がある。

イントロから漂う空気は、静かに揺れていくような落ち着いた質感。Jの低音は重くうねるというより、地面にそっと影を落とすように支え、SUGIZOとINORANのギターは光と影を重ねるように寄り添う。真矢のドラムも力強さを保ちながら、叩きつけるのではなく、緩やかに波を描く。

その中心にあるRYUICHIの声は、張り上げるのではなく“語りかけるような透明感”。

切なさがすぐそばにあるのに、決して押しつけず、ふっと触れるだけで心が揺れる。その距離感こそが、この曲のいちばんの魅力だ。

映画の世界観にも馴染む、淡い緊張と静かな余韻が共存しており、LUNA SEAの表現の幅が瑞々しく表れた作品になっている。

心が静かに沈んでいく、その先で

主題歌となった映画『アナザヘヴン』の世界観に寄り添いつつも、『gravity』は暗さに沈まない。むしろ、人の内側にある“かすかな温度”を描き出しており、作品をまたいで共鳴するようなバランスを保っている。

これは、90年代を駆け抜け、大きな成功と音楽シーンの変化を経験したLUNA SEAだからこそ表現できた成熟だった。情熱の炎が少し落ち着き、代わりに深い余韻や温度差を音で描けるようになっていた時期。『gravity』は、その変化を最も自然な形で示した一曲でもある。

春の早朝の風のように冷たくも優しいサウンド。揺れるようなメロディライン。そして、聴く側に余韻を委ねる歌声。強さよりも脆さ、爆発よりも陰影。そんな“静かな揺れ”が、2000年の空気と不思議な調和を見せた。

25年という時間が経っても『gravity』が心から離れないのは、どんな年齢で聴いても、そのときの自分の感情が静かに入り込めるからだろう。時代に縛られない、淡い色のバラードだからこそ、いつまでたっても心に残る。今もふとした瞬間、あの淡いイントロが脳裏に浮かぶ。あの日の光と影が、そっと胸の奥で弧を描くように。

※この記事は執筆時点の情報に基づいています。


必要であれば、文字数調整やトーン修正も対応します。