1. トップ
  2. 20年前、冬の街が“そっと息を呑んだ”バラード 朝ドラを包んだ“透明な祈りの一曲”

20年前、冬の街が“そっと息を呑んだ”バラード 朝ドラを包んだ“透明な祈りの一曲”

  • 2025.12.2

「20年前、どんな空気が朝に流れていたか覚えてる?」

年末の気配が近づくと、窓の外の冷たさが急に輪郭を帯び、吐く息の白さに季節の歩みを感じ始める。忙しさと静けさが同居する、あの独特の余白。そんな時間の隙間に、ふっと入り込むように届いた一曲があった。

森山直太朗『風花』(作詞:森山直太朗・御徒町凧・作曲:森山直太朗・御徒町凧)――2005年11月16日発売

NHK連続テレビ小説『風のハルカ』の主題歌として、毎朝流れていたあの声音。その柔らかな響きは、慌ただしい日常の中に、ほんのわずかな“静けさ”をそっと差し込んでくれた。気づけば多くの人が、画面の向こうの物語と、この曲の温度を重ねていたのだろう。

冬の光にそっと溶けた、ひとつの歌

森山直太朗にとって9枚目のシングルとなる『風花』は、『さくら(独唱)』や『夏の終わり』『生きとし生ける物へ』などで国民的な存在へと飛躍した彼が、その先で見せた“もうひとつの表情”だった。

ただ静かに、ただ真っ直ぐに、冬の空気のような透明感で聴く人の心に触れていく。どこか素朴であたたかく、慎ましい朝ドラの風景にそっと寄り添うこの曲は、まるで物語の登場人物たちの息づかいを代弁するように流れていた。

そして年末には、この曲で森山直太朗は『第56回NHK紅白歌合戦』に出場。穏やかな一曲が“年を締めくくる舞台”に選ばれたことは、それだけこの歌が多くの人の日常に浸透していた証拠ともいえる。

undefined
2006年、J-WAVEの特別番組公開生放送に出演した森山直太朗(C)SANKEI

直太朗×御徒町凧が描く“祈り”のような世界

作詞・作曲を手がけたのは、森山直太朗と長年の創作パートナーである御徒町凧。

ふたりが生む作品には、いつも言葉の奥に“静かな祈り”のようなものが流れている。感情を直接描くのではなく、情景や空気を通して、聴く人にそっと心の動きを預けるようなスタイル。

『風花』もその系譜にあり、景色をそっと映し出すような歌の佇まいが、ふたりの共作ならではの深度を湛えている。サウンド面でも“派手さより余白”を大切にするアレンジが施され、朝ドラのテーマ曲として毎日耳にする中で、聴く人の心に過度な負荷をかけない“日常の音楽”として成立していた。

今もなお、静かに降り積もる余韻

『風花』を聴くと、街の匂いや、テレビの前で迎えた朝の時間がふと蘇る。当時の記憶をそっと呼び起こすのが、この曲の持つやわらかな力だ。

20年前に吹いた静かな風は、今もどこかでそっと鳴っている。そして『風花』は、その風の中に溶け込むように、聴く人の日常に寄り添い続ける。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。