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35年前、バブル熱の裏で流れた“ささやかな幸せ” “優しいポップソング”が愛されたワケ

  • 2025.12.1

「35年前の冬、どんな音が街をあたためていたんだろう?」

1990年の師走。バブルの熱気はまだ街に残っていたけれど、その奥にはどこか“静けさ”の気配が漂っていた。イルミネーションが滲む帰り道、乾いた空気を吸い込みながら歩くと、胸のどこかがふっと軽くなる。あの頃の冬には、そんな“ささやかな優しさ”が確かにあった。

平松愛理『素敵なルネッサンス』(作詞・作曲:平松愛理)――1990年12月5日発売

派手に盛り上げるラブソングではない。だけど、聴くと心の温度がじんわり上がる“芯の優しさ”を宿した一曲だった。

冬の空気にふと溶ける、平松愛理の透明な歌声

『素敵なルネッサンス』は、彼女にとって5枚目のシングル。翌年以降の代表曲につながる“叙情性”や“あたたかさ”が、すでに静かに芽生えていた時期でもある。

平松愛理が生み出したメロディの輪郭には、どこか洋楽の香りも漂う。それでいて、日本の冬の空気にすっと馴染む柔らかさがある。まっすぐで透明感のある声が、凍った空気を少し溶かすように広がっていった。

当時の彼女の歌は、決して大げさではない。語るように、寄り添うように、ひとつひとつの音を丁寧に積み重ねていく。その姿勢が、この曲でも強く感じられる。

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平松愛理-1997年撮影(C)SANKEI

“恋が動き出す前の時間”をそっと描いたポップス

この曲には、ドラマチックな展開や強烈なフックはない。むしろ、恋が始まる直前のふわりとした空気を、音で包んだような佇まいがある。

軽やかなキーボード、やわらかいリズム、すっと伸びるメロディライン。華美な装飾よりも“余白”が優先されたサウンドは、聴く人がそれぞれの景色を重ねられるように開かれていた。

特別なことが起きるわけじゃないのに、なんだか心が明るくなる。そんな小さな喜びの瞬間が、この曲にはぎゅっと閉じ込められている。

バラエティ番組のエンディングから広がった、素朴な強さ

『素敵なルネッサンス』は、フジテレビ系『ウッチャンナンチャンのやるならやらねば!』のエンディングテーマとしてオンエアされ、多くの人の耳に自然と届いていった。番組の賑やかさとは対照的な、柔らかな余韻。家庭のリビングに流れ込むこの曲のやさしさは、記憶の中で静かに光り続けている。

セールスは20万枚以上。派手なブームの渦中にあった90年の音楽シーンで、この数字は“堅実に愛された曲”である証でもあった。

この頃の平松愛理は、翌年以降の大きな飛躍へ向かう途中にいた。彼女が持つ物語性や表現力が、多くのリスナーに届く準備を進めていた時期。その“助走”を象徴するような瑞々しい作品が、まさにこの『素敵なルネッサンス』なのだ。

小さなロマンスが似合う、1990年の冬の街で

今あらためて聴くと、この曲が映し出していたのは大恋愛ではなく、“日々の中にふっと灯るロマンス”だったことに気づく。季節の匂い、街のざわめき、肩越しに見える光。その一つひとつが、当時のリスナーの“ささやかな幸せ”をすくい上げていた。

日常の中で、ふと心がきれいになる瞬間。そんな気持ちを思い出させてくれる一曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。