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30年前、“冬の女王”が放った30万ヒット「流れたら一気にテンションが上がる」ワケ

  • 2025.12.1

「30年前、ゲレンデの空気って、どんな匂いがしていたっけ?」

白い息がほのかに光り、夜になるとロッジの明かりが粉雪を照らす。冬の高原を走るリフトの音、厚手のニット帽、真っ赤な頬。あの頃のスキー場には、どこか特別な高揚感が漂っていた。そんな1995年の冬、その空気を丸ごと閉じ込めたような1曲が勢いよくゲレンデを駆け抜けた。

広瀬香美『ゲレンデがとけるほど恋したい』(作詞・作曲:広瀬香美)――1995年12月1日発売

「アルペン」のCMと、映画『ゲレンデがとけるほど恋したい。』の主題歌。冬の街から雪山まで、どこにいてもこの曲が聴こえてくる。30万枚以上のセールスを記録し、“冬=広瀬香美”という図式を決定づけた象徴的なナンバーだった。

冬の恋を駆け上がる“広瀬香美サウンド”の真骨頂

広瀬香美は、90年代半ばに“冬の女王”として圧倒的な存在感を放ち始めていた。『ロマンスの神様』、『幸せをつかみたい』など、アルペンのCMソングでヒットを連発。その勢いの中でリリースされた7枚目のシングルが『ゲレンデがとけるほど恋したい』だ。

この曲の最大の魅力は、やはり広瀬香美ならではの“突き抜けるメロディライン”と、ウィンターソング特有のキラキラしたサウンドにある。

90年代のポップシーンでもひときわ存在感を放つ、ダイナミックで跳ねるような旋律。スキー場の広い空をバックにしたとき、最も映えるサウンドといっていい。

そして、全編を軽快に駆け抜ける“雪の粒が弾けるみたいな爽快感”。この高揚感こそが、当時のリスナーの心を一気に連れ去った。

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広瀬香美-2006年撮影(C)SANKEI

映画とCMが作り上げた“冬のムード”

この曲は、同名映画の主題歌としても使われた。冬の恋を描いたストーリーと共に、楽曲はさらに広がっていく。同時に「アルペン」のCMで繰り返し流れ、スキー用品店や街の店内BGMとしても浸透。1995年の冬の景色そのものを彩る役目を担った。

当時のスキー場は、若者のカルチャーの中心地。流れる音楽は、恋の始まりの“スイッチ”のようなものだった。その中で『ゲレンデがとけるほど恋したい』は、まさに象徴的な存在に。「これが流れたら一気にテンションが上がる」という声が多かったのも頷ける。

音の粒立ちが魅せる“冬のドラマ”

アレンジは、広瀬香美のボーカルを中心に据えながらも、シンセとストリングスを活用した華やかさが際立つ。イントロから一気に引っ張られる勢いがあり、そのままサビへ向かって駆け上がる展開は、まるでゲレンデの斜面を滑り降りる時のスピード感にも似ている。

その上で、広瀬香美のクリアで伸びる声が、冬の冷たい空気に溶け込むように響く。決して切なさではなく、寒さを跳ね返すような前向きなエネルギー。だからこそ、聴いている側も自然と顔が上を向く。恋が始まりそうな“気配”を耳で感じられるような一曲だった。

“冬=広瀬香美”を決定づけた瞬間

30万枚以上のヒットを記録し、冬の定番曲として確固たるポジションを築いた本作。

この曲をきっかけに、広瀬香美は“冬を象徴するアーティスト”としてのイメージを完全に固めていく。冬になると彼女の楽曲がチャートやCMに並び、毎年の季節行事のように聴かれる存在になっていった。

1995年のゲレンデには、スキーの音、笑い声、白い息、そして確かにこの曲が流れていた。その風景を覚えている人なら、今でもイントロが鳴った瞬間、胸の奥がふっと温かくなるだろう。

あの冬、恋も景色も音楽もひとつにつながっていた。そんな記憶が、今も静かに息づいている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。