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歯科衛生士「認知症のリスクが高まる」→実は“全身に悪影響”を及ぼす…歯周病菌「レッドコンプレックス」の恐ろしいリスクとは?

  • 2025.11.15
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出典:photoAC(※画像はイメージです)

歯周病という言葉は多くの人に知られていますが、その進行に関わる「レッドコンプレックス」という言葉はあまり馴染みがないかもしれません。少し怖そうな響きですが、実は歯周病の悪化に深く関係している細菌のこと。

今回は、歯周病を悪化させるこの「レッドコンプレックス」について、歯科衛生士のDH.curioさんに詳しく伺いました。

口の中に潜む歯周病原因菌「レッドコンプレックス」とは?

私たちの口の中には常に多くの種類の細菌が存在しています。その中で、歯周病は歯の周りの組織に細菌が感染することで起こる病気です。特に危険とされるのが、「レッドコンプレックス」と呼ばれる3種類の細菌です。これは「ポルフィロモナス・ジンジバリス(P.g菌)」「トレポネーマ・デンティコラ(T.d菌)」「タネレラ・フォーサイセンシス(T.f菌)」の3つの総称です。

まず「P.g菌」は、食べ物のたんぱく質を分解して栄養にし、粘り気のある物質を作り出します。この物質が細菌のかたまり「バイオフィルム」を形成し、その中で細菌が増えていきます。

次に「T.d菌」は、このバイオフィルムの中で増え、歯の周りの組織や血管の中に入り込みます。さらに、組織を壊したり、体の免疫を弱める働きを持っています。そして、「T.f菌」も同じくたんぱく質を分解する酵素や毒素を出し、歯周病をさらに悪化させます。「T.f菌」は単独で存在せず、他22種類の菌と一緒に悪さを助け合っています。

このように、3つの細菌はそれぞれ異なる役割を持ちつつ、口の中で協力して増え、歯周病を深刻化させます。だからこそ、これら3つの細菌は特に注意すべき「レッドコンプレックス」と呼ばれているのです。

歯周病がもたらす全身への悪影響とは?

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出典:photoAC(※画像はイメージです)

歯周病は口の中だけの問題ではありません。例えば糖尿病は、体内で血糖値をコントロールするホルモン「インスリン」がうまく働かなくなる病気ですが、歯周病の原因菌の中にはインスリンの働きを妨げ、糖尿病を悪化させるものがあります。また、歯周病による炎症で作られる物質が血糖値を上げやすくすることも科学的に明らかになっています。

また、血管の壁にコレステロールなどがたまって血管が硬くなり、厚くなる「動脈硬化」も歯周病と関係していることも。口の中の歯周病菌が血管を通り全身に広がると、血管の壁に感染・炎症を起こし、動脈硬化の原因になるのです。動脈硬化が進むと、血流が悪くなり、脳梗塞や心筋梗塞、さらには認知症のリスクも高まります。

さらに、レッドコンプレックスの菌は関節リウマチや肝臓の病気にも影響を与えることが分かっています。歯周病で弱くなった組織は他の菌も入り込みやすくなり、誤嚥性肺炎などの病気を引き起こすこともあります。特に高齢者に多い誤嚥性肺炎は、口の中から入った細菌が肺で増え炎症を起こす病気です。

このように、歯周病を予防することは、口だけでなく全身の健康を守ることにつながるといえるでしょう。

歯周病を防ぐためのケアと歯科医院での治療

食べ物や飲み物に含まれる糖やたんぱく質は、口の中で歯垢(しこう)と呼ばれる細菌の塊となり、固まると歯石(しせき)になります。この歯石の内側にあるバイオフィルムは、細菌の防壁となって細菌を守っています。レッドコンプレックスなどの歯周病菌は、この環境を栄養にして増えていきます。

歯周病を防ぐためには、歯垢や歯石、そしてバイオフィルムをしっかり取り除き、口の中の細菌の数を減らすことが大切。歯科医院では初めに、歯と歯茎の間の溝の深さを測ったり、細菌の量を調べたりして歯周病の状態を確認します。その後、専用の器具や歯ブラシを使って歯石やバイオフィルムを除去し、歯周病菌を取り除きます。

しかし、歯周病菌はすぐにまた増えてしまうため、歯科医院での治療だけでなく、自宅でのケアも非常に重要です。歯科医院ではそれぞれにあった歯ブラシや歯間ブラシの使い方を教えてくれますので、それを参考にしましょう。歯を磨く時は、鏡を見ながら1本ずつ丁寧にゆっくり磨くことがポイント。特に奥歯や歯の内側は磨き残しが多くなりやすいので注意しましょう。

歯周病以外のリスクも考えて丁寧なケアを

歯周病の悪化に大きく関わる「レッドコンプレックス」と呼ばれる3つの細菌は、互いに助け合いながら口の中で増殖し、歯の周りの組織を壊してしまいます。この歯周病は、糖尿病や動脈硬化、脳梗塞、心筋梗塞、認知症、関節リウマチ、肝臓疾患、さらには誤嚥性肺炎などの全身の病気とも関わりがあることが分かっています。だからこそ、歯周病を予防し、口の中の細菌を減らすことは全身の健康を守るためにも欠かせません。

歯科医院での定期的な検査と専門的な治療に加え、自宅での丁寧な歯磨きを継続することが、歯周病の原因菌を抑え込み、健康な口腔環境を保つ最も効果的な方法です。これらを意識しながら日々のケアに取り組みましょう。


監修者:DH.curio

歯科衛生士専門学校を卒業後、一般歯科や訪問歯科で歯科衛生士業務に従事。
その後、在宅口腔ケアに関する認定やケアマネージャーを取得。
現在は一般歯科に従事する傍ら、医療ケア児や高齢者の在宅ケア推進のための地域歯科医療連携・歯科健康保健推進事業に関する業務や歯科に関する記事の執筆活動を行っている。
これまでに歯科医院のHPのブログ記事やケアマネージャーの試験問題解説、YouTubeの原作台本なども作成。
次の目標は社会福祉士の国家免許取得。
座右の銘は「明日死ぬかのように生きよ。永遠に生きるかのように学べ」
P.Nの『DH.curio』は、いつまでも勉強や挑戦を恐れずに好奇心(curiosity)を持つことを忘れない歯科衛生士(DH)であり続けたいため。