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「賠償額は1,000万円を超える」部活中の生徒を襲った事故…学校側への請求が、“超高額”に跳ね上がる本当の理由【弁護士が解説】

  • 2025.11.28
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

青春の汗と涙が詰まった部活動。しかし、その裏では一瞬の判断ミスが、生徒の人生を大きく左右する重大事故につながる危険性が常に潜んでいます。練習中の事故は「自己責任」なのでしょうか。それとも、指導した顧問や学校の責任を問えるのでしょうか。

実際に、部活動中の事故をめぐる裁判では、学校側の安全配慮義務違反を認め、数千万円にも上る高額な賠償を命じる判決が下されています。

今回は、どのような場合に顧問の「指導ミス」が法的に問われるのか、そして高額賠償の根拠はどこにあるのか、じょうばん法律事務所 鬼沢健士 弁護士に解説していただきます。

顧問・学校の「安全配慮義務」とは?

まず、なぜ部活動という生徒が自主的に参加する活動の中で起きた事故について、学校や顧問が法的な責任を問われるのでしょうか。

学校や教員は、生徒が安全で健康な学校生活を送れるように配慮する『安全配慮義務』を負っています。部活動も学校教育の一環である以上、練習中であってもこの義務は当然に適用されます。

つまり、部活動中の事故は単なる不運な出来事として片付けられるのではなく、学校側がこの「安全配慮義務」を尽くしていたかどうかが、法的な観点から厳しく問われることになるのです。

法的責任を分ける「予見可能性」と「回避可能性」

では、具体的にどのような状況で、顧問の指導が法的に「指導ミス(安全配慮義務違反)」と判断されるのでしょうか。その鍵となるのが「予見可能性回避可能性」という2つの考え方です。

  • 予見可能性:その状況で、事故が起こることを予測できたか
  • 回避可能性:事故を予測できたとして、それを避けるための対策を取ることができたか

例えば、高温多湿の真夏日に長時間走り込みをさせるケースを考えてみましょう。

  1. 予見可能性:このような環境で激しい運動を続ければ、生徒が熱中症に陥る危険があることは十分に予測できます(予見可能性あり)。
  2. 回避可能性:こまめな水分補給を指示する、練習時間を短縮する、涼しい時間帯に練習を行うといった対策を取ることで、熱中症は防ぐことが可能です(回避可能性あり)。

もし顧問がこれらの対策を怠り、生徒が重度の熱中症になってしまった場合、安全配慮義務違反があったと判断される可能性が非常に高くなります。

裁判で争点となる具体的なポイント

実際の裁判では、どのような点が詳しく審理されるのでしょうか。

鬼沢弁護士によると、安全配慮義務違反の有無を判断するために、以下のような要素が総合的に検討されるといいます。

  • 部活動の種目特性と危険性:柔道やボクシングといった格闘技、あるいは体操やラグビーなど、身体接触や高所からの落下が伴う危険性の高い種目では、より高度な安全配慮が求められます。
  • 練習内容の適切性:その練習は、生徒の年齢、体力、技術レベルに見合ったものだったか。
  • 生徒本人の技量や経験:被害生徒がその練習に習熟しており、過去に何度も問題なくこなしていたような場合、顧問の予見可能性が低かったと判断され、安全配慮義務違反が否定されるケースもあります。

このように、裁判所は事故当時の様々な状況を細かく分析し、「顧問が危険を予見し、それを回避できたか」を慎重に判断していくのです。

なぜ賠償額は「数千万円」と高額になるのか?

部活動の事故をめぐる裁判で、学校側に数千万円もの高額な賠償が命じられるケースは少なくありません。なぜこれほど高額になるのでしょうか。

その理由として、被害者が若いことが挙げられます。

  • 慰謝料:事故によって被害者が受けた精神的・肉体的な苦痛に対して支払われるお金です。死亡事故や、麻痺などの重い後遺障害が残った場合、慰謝料だけでも1,000万円を超えるケースが一般的です。
  • 逸失利益(いっしつりえき):「事故がなければ、その生徒が将来得られたはずの収入」を指します。被害者が若ければ若いほど、将来働くはずだった期間が長くなります。例えば、中学生や高校生が事故で重い後遺障害を負い、将来の就労が困難になった場合、事故後の約50年分の生涯収入が失われたと計算されるため、逸失利益だけで数千万円に達することが大半です。

この2つを合算した結果、賠償額が数千万円に及ぶ高額になるのです。

ただし、弁護士は「生徒側にも不注意があったと判断される場合は、その過失の割合に応じて賠償額が減額(過失相殺)されることがある」と付け加えます。

事故は「不運」で済まされない。問われる指導者の重い責任

部活動における事故は、単なる「自己責任」や「不運」では片付けられないケースが数多くあります。指導者である顧問や学校には、生徒の安全を確保するという法的な義務が課せられており、その責任は極めて重いものです。

「危険を予見し、回避する」という安全配慮義務の原則は、あらゆる部活動の指導の根幹になければなりません。万が一、この義務を怠ったと判断されれば、生徒が失った未来の対価として、数千万円という高額な賠償責任を負う可能性があることを、指導者は常に心に留めておく必要があります。

生徒の情熱と努力が、悲しい事故によって踏みにじられることのないよう、教育現場全体で安全管理への意識を一層高めていくことが求められています。


監修者名:鬼沢健士 弁護士

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茨城県取手市でじょうばん法律事務所所属。
できる限り着手金無料で、労働問題(不当解雇、未払残業代等)や詐欺被害救済に積極的に取り組んでいる。