1. トップ
  2. 朝ドラの空気をかえる“名脇役”「とても良い」「時代に合ってる」実力派を多く抱える事務所出身の“注目女優”

朝ドラの空気をかえる“名脇役”「とても良い」「時代に合ってる」実力派を多く抱える事務所出身の“注目女優”

  • 2025.11.18
undefined
『ばけばけ』第7週(C)NHK

明治・松江の風土と、異国からやってきた英語教師・ヘブン(トミー・バストウ)の来日騒動、そしてヒロイン・トキ(髙石あかり)が懸命に働き、家族を支えようと奮闘する様子が絶妙なバランスで描かれる朝ドラ『ばけばけ』。ついにヘブンの女中として働くことになったトキを、横で支えるのがウメ(野内まる)である。トキとも縁の深い花田旅館の女中として立ち働く彼女は、そこはかとない存在感で『ばけばけ』を支えている。

ウメという“静かな主役”朝ドラを支える癒しと実力

トキが英語教師・ヘブンの女中として初日を迎えるその朝。かねてよりトキたちのことを気にかけてくれていた、花田旅館の面々の計らいによって、ヘブンの身の回りの世話について熟知している女中のウメがしばらくともに手伝ってくれることになった。

ウメは、しじみ売りをしていたトキを知る“身近な味方”。そして、異国の客人であるヘブンの世話を任されてきた女中として、仕事の段取りから異人の扱いまで、何もかも自然体でこなしてしまう。いわば最強な女中なのだ。

たとえば、寝起きのヘブンはテンションが低いことが多かったり、英語が一ミリも分からなくても、笑って聞いていればご機嫌でいてくれることだったり、食後には必ず一杯だけお茶を飲む習慣があったり。

こうした細やかな生活のリズムを、ウメは心得ている。だからこそ、トキが緊張しながらヘブン宅の敷居をまたぐその瞬間、ウメがついているだけで視聴者もなんだか安心してしまうのだ。

そして何より、劇中でのウメは、物語をそっと整える人。不安に押し潰されそうなトキの横で、決して前に出すぎず、静かに支え続ける。ヘブンとの距離感も絶妙で、妙な気負いがまったくない。彼女が画面にいると、空気が一段とやわらぐ。

派手な感情の起伏こそないものの、トキの覚悟を支える“もうひとつの心臓”として確かに機能している。そんな名脇役であり、実は作品の温度を決定づける存在でもある。

名門ユマニテが育てる実力派の芽

女優・野内まるは2002年生まれ、神奈川県出身。所属事務所はユマニテだ。ドラマや映画ファンにとっては、馴染み深い事務所名である。安藤サクラ、岸井ゆきの、古川琴音、門脇麦、そして『ばけばけ』にも出演していた寛一郎など、実力派の看板がずらりと並ぶ。

いずれも“自然体の演技”を求められる作品に強く、独特の体温をもつ俳優が多い。野内まるにも、その“ユマニテらしさ”が確実に宿っている。

『ばけばけ』でのウメは、一見おっとりしているようで、実は相手の状態を鋭敏に察知し、必要な距離感で寄り添うタイプのキャラクターだ。その微妙なニュアンスを、野内は力みなく演じている。“ドラマに馴染む俳優”というよりは、“ドラマの呼吸を自然に変えられる俳優”の特徴を持っているように思える。

さらに言えば、本作での髙石あかりとの共演は、TBS日曜劇場『御上先生』に続き二度目。ともに、主演・松坂桃李演じる官僚教師・御上の生徒役を演じていた。若手同士で波長が合うことは、すでに別現場で証明されているはず。だからこそ、トキとウメの空気感はとても自然で、安心できるのだ。

そして、野内まるの演技には“時代性”も宿っている。若い世代の視聴者が求めているのは、決して派手な芝居ではなく、身近にいそうで、でもどこかに芯がある人。野内は、その需要を見事に体現しているのだ。SNS上でも「とても良い」「時代に合ってる」と好評な理由が、本作での彼女の演技を見れば自然と知れる。

“時代に合ってる俳優”が持つ力

undefined
『ばけばけ』第7週(C)NHK

『ばけばけ』は、異国文化の香りがする作品でありながら、登場人物たちの情のやり取りはきわめて日本的である。そのなかで、ウメは“緊張と緩和のバランス”を引き受ける役割を担っている。

ヘブンという未知の存在に怯え、家族に嘘をつき胸を締めつけられるトキ。本作独特のコミカルさでマイルドになってはいるものの、借金取りに追われる生活は決して心豊かなものではないだろう。生まれ育った時代の価値観に縛られる女性たちの苦しみには、繰り返し触れられてきた。

そんな閉塞状況において、ウメはぽっと灯る明かりのようにふるまう。決して大きな事件を起こさない。けれど、視聴者が“彼女がいるからトキは耐えられる”と感じられるほどの温度がある。これは、役者本人の持つ“人柄の温度”が演技ににじみ出ていないと成立しない。

スピードも強さも求められる時代において、静かで自然で優しい演技を提供できる女優は貴重だ。朝ドラらしいぬくもりを守りながら、背景の生活感も丁寧にすくい上げる。

ウメのやさしさは、ただ演じ分けられたものではない。野内まる自身が持つ“透明な人間性”が、役を通して伝播しているのだ。


連続テレビ小説『ばけばけ』毎週月曜〜土曜あさ8時放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。Twitter:@yuu_uu_