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「ぴったりすぎ」NHK夜ドラで“新たな当たり役”…!癖のある役でキャリアを積んだ俳優の“鮮やかな裏切り”が話題に

  • 2025.11.17

NHK夜ドラ『ひらやすみ』における吉村界人の存在感が、じわじわと視聴者の間で話題になっている。彼が演じるのは、岡山天音扮する主人公・ヒロトの親友、野口ヒデキ。築地からシマアジを抱えてやってきては、彼の暮らす平屋でのんびりと過ごし、何気ない会話を交わしていく。ほんの一瞬の登場であっても、彼が画面にいるだけで、そこに“リアルな暮らし”が出現するのだ。これまで“ワケあり青年”や“危うい若者”を演じることの多かった吉村界人にとって、本作でのヒデキは、その演技レンジの広さを静かに、しかし確実に示す新たな当たり役となっている。

原作そのまま?“似すぎ”のキャスティングが成立する理由

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夜ドラ『ひらやすみ』第2週(C)NHK

『ひらやすみ』は、真造圭伍による人気漫画を原作とする。飄々としたヒロトと、しっかり者のいとこ・なつみ(森七菜)、そして彼らを取り巻くゆるやかで多彩な登場人物たちの暮らしを描く本作において、ヒデキはその空気を象徴するような人物だ。

明るく陽気でひょうきんもの、妻想いで、どこか気の抜けたような口調。ひと昔前の“昭和の気のいい兄ちゃん”を思わせるような人懐っこさと、何を考えているのかつかみきれない謎めいた余白まで併せ持っている。

そんなキャラクターに、吉村界人は驚くほど自然にフィットしている。SNSでも「ぴったりすぎて最高」「悪役じゃないの珍しい」と驚きの声が上がるほどだ。出演シーンが多いわけではないものの、言葉を発するタイミングや声のトーン、独特のウインクの仕方など、細部にいたるまでヒデキという人物が“生活者”としてその場に存在している説得力を持っている。

漫画原作の映像化作品では、往々にして“ビジュアルが似ている”ことが話題になりがちだが、本作における吉村のキャスティングの成功は、それ以上に“存在感の質感”とも言えるものが、漫画と地続きである点が大きい。原作の“匂い”をそのまま連れてきたかのような、希有なバランス感覚が光っている。

作為のなさが光る演技術

吉村界人といえば、これまでも数々のドラマや映画などで“癖のある役柄”を演じてきた印象が強い。激情型の青年、不器用で社会に馴染めない若者、あるいはショーガールや人気YouTuber役まで。その演技には常に“観る側の安心を揺さぶる”何かがあった。

ところが本作『ひらやすみ』におけるヒデキは、その対極とも言える“安心させるキャラクター”である。

たとえば築地帰りにふらりとヒロトたちが暮らす平屋に立ち寄り、「捌ける?」とシマアジを差し出す姿。気取らず、自然体で、シマアジ! シマアジ! とはしゃぐ姿。そのどれもが、まるで本当にその場に“生活している人”のように映るのは、吉村の演技が作為のなさを、極めて高い次元で体現しているからだ。

過剰に芝居をしない、セリフを声に乗せすぎない、目線を動かさず、口元だけで笑う。そうした“削ぎ落とし”の演技を成立させるのは、演技力というより“人物としてそこに居られるかどうか”という役者としての総合力である。ヒデキが画面に映るたびに、観る側の呼吸がふっと緩むのは、その居方がどこまでも自然だからだろう。

特筆すべきは、ヒロト役の岡山天音との相性のよさだ。親友として言葉を多く交わさずとも、何となく通じ合っている。そんな関係性のニュアンスが、ふとした目配せや沈黙の間合いに宿っている。言葉にせずとも“親友”であることが伝わるのは、役者としての呼吸が合っている証拠ではないだろうか。

“脱・悪役”で開く可能性

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夜ドラ『ひらやすみ』第2週(C)NHK

これまでのキャリアにおいて、どちらかといえば危うさや切なさ、暗さの伴う役を担うことが多かったイメージの吉村界人。本作で“普通の良い人”を演じることの意味は大きい。役者のイメージは往々にして過去の当たり役に縛られてしまうものだが、吉村は今作でそのイメージを鮮やかに裏切った。

しかもそれは、ギャップで笑わせるような、“悪役俳優が善人役をやってみました”的な逆張りではない。最初からこうだったかのようなナチュラルさで、キャラクターの輪郭を丁寧に立ち上げている。その変化のさせ方が、実に巧みで品がある。

今後、吉村界人が演じられる役の幅は、確実に広がるはずだ。強さも、弱さも、暗さも、明るさも引き受けられる役者であることが、『ひらやすみ』でのヒデキを通じて、はっきりと示された。親しみやすさと底知れなさ。その両方を抱え込んだ吉村の演技は、これからさらに評価されていくだろう。


NHK夜ドラ『ひらやすみ』毎週月曜~木曜よる10時45分放送
NHK ONE(新NHKプラス)同時見逃し配信中・過去回はNHKオンデマンドで配信

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_