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敵も味方も多彩に演じ切る“名演技” 経験豊富な女優だからこそ生まれた“説得力あるシーン”【日曜ドラマ】

  • 2025.11.19

日本テレビ日曜よる10時半から放送中のドラマ『ぼくたちん家』。

主人公の心優しきゲイ・波多野玄一を演じるのは及川光博。そんな波多野が恋をするクールなゲイ教師・作田を手越祐也が演じる。今回は、波多野が暮らす『井の頭アパート』の大家・井の頭今日子を演じる坂井真紀にスポットを当てる。

※以下本文には放送内容が含まれます。

複雑な大人と中学生の関係

主人公となるのは少し不器用で情に厚い男・波多野玄一(及川光博)。御年50歳。『杉の森動植物園』で働き、家では職場に捨てられた動物たちと暮らしている。しかし、住んでいたアパートはペット禁止。規約違反で契約解除を言い渡され、『井の頭アパート』へと引っ越すこととなる。

そこで出会ったのが中学3年生の楠ほたる(白鳥玉季)だ。母のともえ(麻生久美子)とふたり暮らしだったが、ともえは現在失踪中。警察や学校、児童相談所など大人たちをのらりくらりとかわしつつ、ひとり暮らしをしていたほたるだが、学校では親が必要な場面が多々ある。担任の作田索(手越祐也)からは三者面談を迫られ、逃げ切れそうにもない。困ったほたるは持っていた現金3,000万円で玄一に「父親のふりをしてほしい」と頼みこむ。

しかし、実は作田と玄一には面識が。同棲していた恋人と別れ、『杉の森動植物園』の駐車場で車中泊していたところ、玄一と偶然出会っていたのだ。

ほたると、担任の作田と、ほたるの父親のフリをしている玄一と。シンプルなようで複雑な関係は、玄一がほたるの父親のフリをしているとバレたことによってまた関係が少し変わっていく。

キュートな「井の頭今日子」

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日曜ドラマ『ぼくたちん家』第3話より(C)日本テレビ

坂井真紀が演じるのは波多野たちが暮らす『井の頭アパート』の大家・井の頭今日子。古くて住人がいないとは言え、ペットをたくさん連れた玄一を快く迎える。何か口うるさいことを言うわけでもなく、自由にやって! と言いつつ、住人たちのことはそれとなく気にかけ…。完全に放っておくわけでもなく、干渉しすぎるわけでもなく、程よい距離感を保っている大家だ。

また、さっぱりしているのかと思いきや、キュートな一面も。

あるとき、玄一のもとに家族からししゃもが送られてきた。玄一はたまたま居合わせたほたるに、そのししゃもを分けるが、あとからそれを知った井の頭は「私にはなかったな」とちょっぴり拗ねる。玄一は慌てて、ししゃもを届けに行ったらしい。そのあと、嬉しそうに共用部分の庭でししゃもを焼いている井の頭の姿が。なんとなく井の頭のキャラクターが感じられるシーンではないだろうか。

井の頭今日子は敵か味方か

坂井真紀と言えば、テレビ、映画、舞台と幅広く活躍をしている。演じる役もさまざまだ。良いお母さんのときもあれば、子どもを置いて男と逃げる女、とにかくキュートさに振り切った役、ちょっととぼけた役もある。善も悪もカラリと演じるからこそ、最初の段階ではほたるたちの味方か否か、どう判断したらよいものか少し迷ってしまった。

しかし、井の頭の人の良さは、ほたるへの対応で垣間見ることができた。ともえは会社のお金を横領して逃げている状況。そんなほたるのことを本当はどう思っているのか、というのが気になるところだった。だが、突然ほたるの父である仁(光石研)が訪れてくるとその存在を訝しみ、さすまたで応戦。大家としての責任感もあるだろうが、大人として「ほたるを守るのは自分である」という姿勢を見せた。

そして、玄一がほたるの父親のフリをしていると知っても拒否反応を示さなかった。むしろノリノリで協力体制。こういうところが違和感なく演じられるのが坂井真紀の魅力のひとつではないだろうか。

井の頭が見せる芯の強さ

井の頭の見せ場のひとつとなったのが第5話だ。逃亡していたともえに呼び出された井の頭は、こっそりと喫茶店で会うことに。ともえは全国各地で集めたご当地キーホルダーを託し、「ほたるに渡してほしい、渡せばわかると思う」と伝えた。

しかし、井の頭はすぐには頷かない。今日はともえを連れて帰るためにここに来たと告げた。どうして横領したのか、どうして逃げているのか、その理由を問いかけながらも「ほたるを置いて行ってはならなかった」と毅然として言い放つ。大切に思っているのなら、何があったとしても置いて行ってはいけなかった、連れていくべきだった。ともえの行動を全て否定はせず、ほたるのことを思いやっての言葉は胸を打つ。それでも、無理やりともえを連れて帰ろうということはしない。井の頭なりの優しさと、芯の強さを感じさせるシーンでもあった。

一方、逃亡を続けるともえは「やらなければならないことがある」とこちらも引かない。ともえが「やらなければならないこと」とは……? ただ、いまのところよりはっきりと分かったことは、ほたるのそばには波多野以外にも心強い味方がいるということだ。


日本テレビ系 『ぼくたちん家』毎週日曜よる10時30分~

ライター:ふくだりょうこ(Fukuda Ryoko) うさぎと暮らすライター。シナリオやインタビュー、コラム、エッセイなどを中心に執筆。小説とお酒と音楽とドラマがあればだいたいご機嫌。