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ついに明かされた“3226万1570円”を盗んだ理由… 回想を使わず“語りだけ”で魅せた名女優の演技【日曜ドラマ】

  • 2025.11.19

「私がもらえなかったお金、3226万1570円」。日本テレビ系日曜ドラマ『ぼくたちん家』第5話で麻生久美子演じる楠ともえが口にしたこのセリフには、氷河期世代の働く女性の悲哀が込められていた。ともえが見てきた境遇は、回想シーンなどで示されない。ただ、とつとつと語る口ぶりからは彼女が抱えてきた大きな虚しさが痛いほど伝わってきた。

※以下本文には放送内容が含まれます。

大金を横領し、逃げ続ける母親

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日曜ドラマ『ぼくたちん家』第3話より(C)日本テレビ

麻生久美子が演じるのは、会社の金を横領し逃げ続けるほたる(白鳥玉季)の母親・楠ともえだ。これまでは、ともえがなぜ横領したのか、横領する前のほたるとの生活については描かれることはなかった。ところが、第5話ではじめて、ほたるが住むアパートの大家・井の頭今日子(坂井真紀)に、事の顛末を語る。ともえが横領という犯罪に手を染めた裏側には、「女だからなめられている」という感覚への怒りがあったのだ。

就職氷河期のなか就職活動をしたともえは、ずっと同じ会社で経理担当の契約社員として働いてきた。面倒くさくない女性社員として過ごしてきたともえだったが、1年働いていた若い男性の契約社員が正社員になったことで、気づいてしまう。女だから損をさせられていると。産休育休後に正社員として復帰できないこと、男性と女性で時給に504円の差があること。契約社員だから、女だから手にできなかった金額が3226万1570円もあった。

ともえはシングルマザーだ。もし3226万1570円があったら、どれだけ余裕のある生活ができただろうか。未来のあるほたるに、高校進学で気を遣わせずにすむ。ともえ自身は何も悪くないのに手にできなかった金額とそれによって損をせざるを得ない現実に向き合った結果、ともえは横領してしまった。

ドラマ内ではともえが損をしてきた生活が回想として振り返られることはなかったが、麻生の口ぶりからは過去に直面したことへの大きな憤りと虚しさが伝わってきた。あえて回想を使わずに、麻生の芝居に委ねたからこそ、ともえの心のなかにくすぶり続けている怒りがリアルに伝わってきた。麻生がともえを演じたからこそ、ともえのバックボーンへの説得力と納得感が生まれたと言えるだろう。

みんなでなら生きていける、未来を変えられる

『ぼくたちん家』第5話は、家具の組み立てをするゲイ3人、ジャンボパフェを食べる女性3人、高校進学を目前に控え、未来を見据える女子中学生2人のシーンが代わる代わる描かれる構成になっていた。それぞれ関わりがないように見えるが、そこに描かれていたのは、同じ属性を持つもの同士のゆるやかな連帯と輝かしい未来への希望だった。

ジャンボパフェを食べるのも、家具を組み立てるのも1人だと時間がかかる。でも、みんなでなら攻略できるかもしれない。第5話は、1人では時間がかかる数々の場面を示しながら、みんなで時間をかけて立ち向かえば、未来を変えられるかもしれないと希望を見せる回となった。

玄一や索(手越祐也)が抱えてきたゲイとしての生きづらさはこれまでも描かれてきたが、女性が直面する課題が描かれたのは、第5話がはじめてだった。唐突に描かれたように見える課題でもきちんと心に響く内容になっていたのは、バブル前後に就職した井の頭今日子と氷河期世代に就職したともえの対話が真に迫るものだったからだ。そしてそこに、今を生きる世代である百瀬まどか(渋谷凪咲)が加わることで、3つの世代の女性から見た社会が描写されていた。世代が違うからあなたの悩みは理解できない、今は恵まれていると切り捨てるのは簡単だ。しかし、より明るく生きやすい未来を掴むためには、世代や価値観を超えて連帯する必要がある。

『ぼくたちん家』第5話は、ままならない社会にどのように立ち向かうべきなのかを爽やかに描いてくれた。SNSでは、「連帯の形に泣きそうになる」「麻生さんと坂井さんのシーン良すぎる」と描かれたテーマに好評の声が集まっている。

丁寧に紡がれていく物語は、最終的にどこに行き着くのだろうか。きっと誰かを救うドラマになってくれるはずだ。


日本テレビ系 『ぼくたちん家』毎週日曜よる10時30分~

ライター:古澤椋子
ドラマや映画コラム、インタビュー、イベントレポートなどを執筆するライター。ドラマ・映画・アニメ・漫画とともに育つ。
X(旧Twitter):@k_ar0202