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ヴァレンティノが“ホタルの光”で照らす希望、5つの注目ポイント──パリ展示会レポート

  • 2025.10.16

1. インスピレーションは暗闇に抗うホタルの光

アレッサンドロ・ミケーレは今季、詩人・映画監督ピエル・パオロ・パゾリーニが1941年に友人へ宛てた手紙を引用した。戦争の恐怖に包まれたボローニャで、学生だったパゾリーニは茂みの中で「小さな火の森」を作り上げるホタルについて綴った。それは、ファシズムの暗闇を生き抜く儚い輝きの象徴だった。

34年後の1975年、パゾリーニは「ホタルの消失」を論じ、個性の光が社会に埋もれてしまったことを指摘した。一方、美術史家ジョルジュ・ディディ=ユベルマンは、「ホタルは死んでいない。私たちが盲目になったのだ」と反論し、かすかな光は今も存在すると主張した。

ミケーレはこの思想を現代に重ね合わせる。情報が溢れ、メジャーなものだけが注目される現代社会は、形は違えど抑圧の時代と似ていると考察。「ファッションは、隠れた光を照らす味方であり、想像力で社会を動かす力を持つ」。画一化に抵抗する美として、ファッションが一石を投じるという信念が、このコレクションに込められている。

2. 闇を照らす光の演出

ショー会場となったアラブ世界研究所では、ホタルが舞う夜の森のような演出が施された。暗闇の中で光が点滅し、動く様子は、ミケーレが語る“見えない光”を視覚化した仕掛け。この演出は、アートユニットNONOTAK(ノノタク)とのコラボレーションによるもの。NONOTAKはパリを拠点とするノエミ・シファーとタカミ・ナカモトのデュオで、光と音、空間を組み合わせた没入型インスタレーション作品で知られている。

「SORA(空)」と題された大規模なキネティック・ライト&サウンド・インスタレーションが、夜空の景観を映し出し、コレクションのテーマであるホタルの輝きをドラマティックに再現。フィナーレでは、モデルたちが空を見上げるような演出で、幻想的なショーを締めくくった。

3. クラシックな装いに秘めた煌めき

ファーストルックには、ホタルを思わせるネオンイエローのパンツが登場。トップスはタックを寄せたブラウスにリボンをあしらい、胸もとや触角のような繊細なラインを描く。

今季の服は、一見クラシックで落ち着いた印象だが、内側には驚異的な手仕事による輝きが隠されている。手作業によって模様を凹凸に浮かび上がらせる刺繍、ストライプ柄を一本一本のリボンを繋ぎ合わせて表現したジャケットなど、クチュールメゾンならではのテクニックが凝縮されている。

カラーパレットはブラックやアイボリーを基調に、ブルーやゴールドのアクセントカラーを差し込み、幻想的なコントラストを演出。夜空に光るホタルのように輝くボタニカルプリントや、スパンコールで表現されたゼブラ柄も目を引いた。

4. 個性の輝きを表現するバッグ&シューズ

注目のバッグは「ドゥ ヴェイン(DeVain)」。既存の「ヴェイン(Vain)」バッグをアップデートした普遍的なフォルムで、ビーズ刺繍やスムースレザーのほか、エキゾチックレザー使いなど、多彩な素材展開が魅力だ。

ロックスタッズをあしらった新型バッグ、パンサーの頭をハンドルにあしらったハンドバッグ「パンテア(Panthea)」の新色、フリンジ付きの巾着バッグ「ネルコート アリス(Nellcôte Alice)」のミニサイズなど、バリエーションを広げた。

シューズは、ポインテッドトゥのピンヒールが主役。リボン付きやレースアップ、透明なストラップ付きなど多彩なデザインが魅力。アーカイブのスネークモチーフも登場し、ハート型のオープントゥに再解釈されている。

スニーカーには手作業で花柄のビーズ刺繍が施され、職人技によって細部まで個性の輝きが表現されている。

ジュエリーは蝶々のモチーフが随所に用いられ、胸もとにネックレスとして、肩や袖にはブローチとして添えられていた。

アイウェアは、細長いキャットアイのサングラスが印象的。細めのフレームが洗練された印象を添え、全体のルックにスタイリッシュなアクセントを加えている。

5. 現代の暗闇に光を見出す、ミケーレのビジョン

暗闇の中で微かな光を見出し、未来への可能性を照らすホタルのように、ファッションは希望の光となる。今季のコレクションは、ミケーレの哲学的な思考の深さと、コレクションを通じて社会に問いかける姿勢を感じられるものだった。世界各地で続く戦争、分断を深める社会、情報が溢れながらも真実が見えにくくなる時代。形は違えど、私たちは再び深い暗闇の中にいる。「地獄の中で地獄でないものを探し、それを持続させ、居場所を与える」というイタロ・カルヴィーノの言葉を引用しながら、ミケーレは物事の本質に目を向け直すことの大切さを説いた。

そして注目したいのは、この哲学的で芸術性の高いクリエイションが、今後どのように顧客の日常へと自然に溶け込んでいくかという点だ。手作業による繊細なディテールの美しさは、近くで見て初めて気づく驚きであり、それは意図的に仕掛けられたもの。だからこそ、“気づく目”を持つ人にこそ響く。この豊かな思想を背景に、どのように芸術性と実用性を両立させながら、より幅広い層へ日常のエレガンスを届けていくのか。そこに期待が寄せられている。

※ヴァレンティノ 2026年春夏コレクションを全て見る>>>

Photos: Gorunway.com Text: Mami Osugi

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