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ついに実現したMARC JACOBSとA.P.C.の初コラボ──共鳴する二人の美学を紐解く

  • 2025.10.1
ジャケット ¥88,000 トップ ¥29,700 バッグ ¥84,700 スカート ¥35,200/すべてA.P.C. MARC JACOBS(アー・ペー・セー カスタマーサービス)
ジャケット ¥88,000 トップ ¥29,700 バッグ ¥84,700 スカート ¥35,200/すべてA.P.C. MARC JACOBS(アー・ペー・セー カスタマーサービス)

90年代初めの一時期、マーク・ジェイコブスのワードローブは、ほぼすべてアー・ペー・セーA.P.C.)のアイテムで占められていた。これはちょうど、マークがファッション界に革命的な変化をもたらしていたときと重なる。当時のマークは、ペリー・エリス(PERRY ELLIES)のデザイナーとして、グランジ全盛期を象徴するチェックのネルシャツからシルクのシャツへとトレンドを塗り替え、同時に展開していた自身のブランドでは、ジップアップのフーディに最高品質のカシミア素材を採用し、ノームコアを再定義していた。このように、ダウンタウンのクールなセンスをファッションの世界に持ち込んでいたマークは、ニューヨークのソーホーにオープンしたばかりのアー・ペー・セーの店舗に足を運んでは、思いのままにアイテムを購入していたという。

「本当にクールだったんですよ」と、マークは当時のブランドを振り返る。「普通で何でもないんです。でも完璧を極めた“普通で何でもない”なんですよね」

このころ、アー・ペー・セーのファウンダーでクリエイティブ・ディレクターのジャン・トゥイトゥは、「アンチ・ファッション」とも言える取り組みに着手していた。パリに本拠を置く彼のブランドは、これ見よがしの派手さを排し、ディテールに細心の注意を払い、ベーシックを極めていた。アー・ペー・セーは80年代の過剰さを過去のものとし、スティーブ・マックイーンのように着こなせる白のプレーンなTシャツや、アルベルト・アインシュタインが着ていたようなセーターを提案した。その目が詰まったインディゴ染めのデニム(ライズの深さが絶妙で、完璧なストレート・フィットだったという)やタートルネックの色合い、店舗でかかる音楽のセンスに、マークはほれ込んだ。

一方、ジャンもマークがそれとなく漂わせるシニシズムや素材へのこだわり、時代の空気を巧みに捉えるデザインセンスに魅了されていた。「やり方こそまったく異なっていましたが、彼のブランドと私のブランドは、同じムーブメントに参画していたと思っています」とジャンは言う。「あのころの私たちは二人揃って、ファッションの歴史の数ページを書いていたと確信しています」

今回の新たなコラボレーションで二人が形にしようとしているのも、まさにあの瞬間、大西洋を挟んで、二人が同時にファッションの新たなモードを書き上げていた時代の息吹だ。二人は今、共通する「普通であること」へのこだわりをベースに、ノスタルジックさと新しさを兼ね備えたアイテムを作り上げている。

だがマークがルイ・ヴィトンLOUIS VUITTON)のアーティスティック・ディレクターに就任し、パリに引っ越す90年代末まで、二人が顔を合わせることはなかった。90年代のクールなシーンにふさわしく、二人の仲立ちをしたのは映画監督のソフィア・コッポラだった。アナ・スイとのディナーのあとで、ソフィアを交えた三人のやりとりが録音されており、この秀逸なまでに奇妙なスポークンワードのトラックという形で、マークとジャンの出会いは形に残っている。

それでも、ジャンはこんな空想を続けているという。「もし、1996年の時点で、私がマークの家のドアをノックして『やあ、マーク。僕たち、やっていることは違うけれど、お互いに惹かれ合ってるよね。何か一緒にやろうよ』と言っていたら、どうなっていたかな?と思うんです」

〈最上段〉ジャンパー ¥242,000〈上から2段目・右〉ジャンパー ¥242,000 トップ ¥19,800〈左〉ジャケット ¥88,000 Tシャツ ¥20,900 キャップ ¥19,800〈上から3段目・右〉パーカ ¥69,300 パンツ ¥52,800 ローファー ¥60,500〈左〉デニム ¥77,000 Tシャツ ¥20,900 ネックレス ¥29,700 パンツ ¥52,800〈中央〉ジャケット ¥77,000 シャツ ¥40,700 バッグ ¥78,100 デニムパンツ ¥52,800 ローファー ¥60,500〈下〉シャツ ¥29,700 キャップ ¥19,800 ショルダーバッグ ¥84,700 ローファー ¥60,500/すべてA.P.C. MARC JACOBS(アー・ペー・セー カスタマーサービス)ソックス スニーカー/すべて私物
〈最上段〉ジャンパー ¥242,000〈上から2段目・右〉ジャンパー ¥242,000 トップ ¥19,800〈左〉ジャケット ¥88,000 Tシャツ ¥20,900 キャップ ¥19,800〈上から3段目・右〉パーカ ¥69,300 パンツ ¥52,800 ローファー ¥60,500〈左〉デニム ¥77,000 Tシャツ ¥20,900 ネックレス ¥29,700 パンツ ¥52,800〈中央〉ジャケット ¥77,000 シャツ ¥40,700 バッグ ¥78,100 デニムパンツ ¥52,800 ローファー ¥60,500〈下〉シャツ ¥29,700 キャップ ¥19,800 ショルダーバッグ ¥84,700 ローファー ¥60,500/すべてA.P.C. MARC JACOBS(アー・ペー・セー カスタマーサービス)ソックス スニーカー/すべて私物

そして、21世紀に入って実現した今回のコラボレーションでは、クラシックなカレッジスタイルを取り入れたアイテムという形で、二人のセンスが結実している。二人は細心の注意を払って、このジャンルの定番を自分たちの流儀でアレンジし、さらにイースターエッグ的な驚きの要素を吹き込んだ。ジーンズやペニーローファーには、マークの横顔のポートレートが彫られた古代ローマ風のコインが仕込まれている(コインの表面には、古代ローマを模して「Imp Marcus Jacobus」(皇帝マルクス・ヤコプス)との文字が刻まれている)。Tシャツには、80年代にジャンがソルボンヌ大学に通っていた当時の学生証がプリントされている。また、別のTシャツには、マークが初のパリ旅行のときに使っていた「カルト・オランジュ」と呼ばれる地下鉄用の定期券が再現された。マーク自身が「人生最良の旅」と振り返るこのとき、17歳だった彼は、衣服の歴史を学ぼうとパリにやってきたのだった。「何もかも、目にするものが私にとっては驚きでした。何もかもがとてもスタイリッシュに見えたんです」と、マークは回想する。

今回のコラボコレクションでは、パリの雰囲気に浮き足立つ「パリのアメリカ人」的なセンスが、そこかしこに認められる。このフランスの首都を訪れた若き日のマークが、目を大きく見開いて発見していったエフォートレスなクールさ、A.P.C.のデザインを裏打ちするこの街の魅力に加えて、90年代のフィットやフォルムへのこだわりが詰め込まれている。

今回のコラボでは、フィット感が売りのダブルネームのスタジアムジャンバー(このサイズ感については、「オーバーサイズにすると、今風になりすぎてしまうから」と、マークが解説している)、完璧にシュリンクされたTシャツ、ボーダー柄のラグビーシャツ、無駄のないラインナップが並ぶダークデニムなどのアイテムが並ぶ。そして大西洋を挟んだ二人の交歓を象徴するジップアップパーカがある。これはジッパーを閉じると、ニューヨークとパリにある設定の架空の大学のエンブレムがつながるデザインだ。

「ともすると私は『自分たちはすっかり大人で、先生の側だ』と思いたくなりますが、本当はいつまでも二人の学生なんです」とジャンは打ち明ける。

「常に学び続ける」というコンセプトは、このコラボの至るところに見て取れる。このスローガンは、義理のきょうだいが教鞭を執るカリフォルニア大学バークレー校のモットーから、ジャンが借りてきたものだ。文化や政治の両面で混迷の度が深まる今だからこそ、このモットーは非常に重要なコンセプトに感じられると、ジャンは打ち明ける。

しかし、それと同様に、プレッピースタイルを象徴するアイテムをこのタイミングでリバイバルさせることには、乾いたユーモアも感じられる。「自分の知らない世界に、何でもないように足を踏み入れることから生まれるクールさがあると思うんです」と、マークは考察する。「プレップスクールに通うような、憧れの世界に目を向け、自分にはふさわしくない世界のコスチュームをまとい、『こんなのは当たり前だよ』というようにふるまう。そこにアイロニーや倒錯した思いがあります。そしてA.P.C.には、ブランドが始まったそのときから、そういう要素が多少あったように思うんです」。このマークの意見に、ジャンも賛同する。「独特なユーモアのセンスこそ、私たちの共通点ですからね」

問い合わせ先/マーク ジェイコブス カスタマーセンター 03-4335-1711

アー・ペー・セー カスタマーサービス 0120-500-990

Photos: Nick Newbold, Courtesy of Marc Jacobs and A.P.C. Translation: Tomoko Nagasawa Editor: Kyoko Osawa

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