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25年前、淡々とした口調で胸に届いた“前へ進む勇気”の音 心を解き放つ“渡り鳥のロック”

  • 2025.11.15

「25年前の秋、あなたはどんな場所で音楽を聴いていた?」

2000年。街のCDショップでは試聴機から流れる音に耳を澄ませ、雑誌のレビューを頼りに“新しい音”を探していた。そんな時代に、若者たちの胸を一瞬でざわつかせた1曲があった。

くるり『ワンダーフォーゲル』(作詞・作曲:岸田繁)――2000年10月18日発売

それは、孤独と自由のあいだを疾走するようなロックナンバーだった。

タイトルに込められた“ワンダーフォーゲル”とは、ドイツ語で「渡り鳥」を意味する言葉。20世紀初頭のドイツで生まれた、若者たちが自然の中を歩き、自分の感性と向き合う自由な旅の文化を指している。まさにその名の通り、この曲もまた、どこか遠くへ飛び立ちたい衝動をそっと背中で語りかけてくるようだ。

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2009年、GAP創立40周年記念イベントに出席したくるり・岸田繁(C)SANKEI

静かな革命児が放った、きらめきの疾走感

京都出身のロックバンド・くるりにとって、この曲は6枚目のシングル。当時、まだ「未来の才能」として注目されていた彼らが、確かな手応えをつかんだ時期でもある。

バンドの中心人物・岸田繁が描くメロディは、フォークやオルタナ、そしてポップスの境界を軽々と越えていった。

『ワンダーフォーゲル』の特徴は、そのキラキラしたシーケンス音と、テクノ的なサウンドメイクにある。ギターやベース、ドラムといった生音の間を縫うように、電子的なリズムとシンセが駆け抜ける。まるで“デジタルの風”に乗って旅立つような音の流れだ。

それまでのくるりが持っていた“温かいローファイ感”に、新しい疾走感が加わり、バンドの次なる方向性を鮮やかに示した一曲だった。

“どこまでも行ける”という感覚

2000年という時代は、ミレニアムを迎え、何かが変わるようで、何も変わらないような、不思議な不安と期待に包まれていた。そんな空気のなかで『ワンダーフォーゲル』は、聴く者に“動き出す理由”をくれた。

軽快なテンポとメロディラインに乗せて、「自分の居場所を探したい」という気持ちを肯定してくれる。それは、単なる応援ソングではない。もっと静かで、もっと個人的な“前へ進む勇気”の音楽だ。

岸田のボーカルは決して叫ばず、淡々とした口調で“歩き出すこと”の意味を歌う。その抑制の中にある熱量こそが、くるりらしい

ライブで進化し続ける、永遠の旅の歌

CD音源ではシーケンス主体のテクノ的アプローチだが、ライブではバンドサウンドにアレンジされ、よりダイナミックに生まれ変わる。電子音のきらめきが、ギターの轟音やベースのうねりに置き換わることで、“旅”がリアルな風景に変わっていく。

つまり『ワンダーフォーゲル』は、くるりにとって“終わらない実験”の象徴でもある。録音作品としての完成度と、ライブでの生々しい進化。その二つの間で、この曲は25年経った今も呼吸を続けているのだ。

風のように過ぎて、残るもの

25年という時間が経った今も、この曲を聴くと、胸の奥が少しだけ熱くなる。大人になった今の自分にも、あの頃の“走り出したい衝動”がまだ残っていることに気づかされる。

そして気づく。音楽とは、過去を懐かしむためのものではなく、“今”をもう一度信じるためのものなのだと。『ワンダーフォーゲル』は、そうした気づきを静かに与えてくれる。

風が吹くように、時代を越えて。くるりの音楽は、いつだって私たちの背中をやさしく押してくれるのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。