1. トップ
  2. 30年前、天才たちが初タッグを組んだ“孤高のロックバラード” 70万枚を超え“激情”を封印した人生テーマ

30年前、天才たちが初タッグを組んだ“孤高のロックバラード” 70万枚を超え“激情”を封印した人生テーマ

  • 2025.11.8

「30年前の秋、あなたはどんな夜を過ごしていた?」

1995年。高層ビルのガラスに映るネオンはまばゆく、だけどどこか儚かった。そんな時代の夜を、ひときわ熱く照らした男がいた。

氷室京介『魂を抱いてくれ』(作詞:松本隆・作曲:氷室京介)――1995年10月25日発売

この曲は、テレビ朝日系ドラマ『風の刑事・東京発!』の主題歌として制作された。作詞に松本隆、編曲に佐橋佳幸という豪華布陣。氷室にとっても初の松本隆との顔合わせとなったこの作品は、彼のキャリアの中でも異彩を放つロックバラードだった。

言葉が燃える夜に

イントロはなく、いきなりの歌い出し。氷室の声がピアノの音とともに夜を切り裂くように響く。ストリングスが全体を包み込み、やがてギターの音が響き、ベースが重く支えていく。

松本隆が紡いだ言葉は、これまでの氷室作品とはまた異なる質感を持っていた。それは“詩的な孤独”と“成熟した愛”の狭間を描くような言葉たち。

氷室の荒々しいロックヴォーカルと、松本の繊細な詩世界。ふたつの個性が、奇跡的な均衡で交わった瞬間だった。

undefined
氷室京介-1998年撮影(C)SANKEI

研ぎ澄まされた“静のロック”

この曲の魅力は、激しさよりも「抑制された熱」にある。氷室はBOØWY時代から一貫して“激情”を表現してきたが、『魂を抱いてくれ』ではそれを内側に閉じ込めるように歌っている。

メロディラインはシンプルだが、言葉のひとつひとつに宿る呼吸と間が美しい。佐橋佳幸による編曲は、決して派手ではない。それでいて、一音一音が丁寧に配置されたような緊張感がある。

ドラマ主題歌という枠を超え、ひとりの男が“生きる姿勢”を音に刻み込んだような作品。松本隆の詞が放つ余白の多い情景描写が、氷室の歌声を通して“言葉の温度”に変わっていく。

豪華布陣が生んだ、音の化学反応

作詞・松本隆、作曲・氷室京介、編曲・佐橋佳幸。それぞれが第一線で活躍するアーティストだが、三者の交わりは意外にも本作が初めてだった。

松本は“日本語ポップスの文体”を築いた作詞家の一人。一方の氷室は、ロックを“生き方そのもの”として表現してきた男。

そんな両者をつなぐ役割を果たしたのが、ギタリストであり編曲家の佐橋佳幸だった。彼の手によって、氷室のロックと松本の叙情が、見事に融合する。もしどちらか一方に寄りすぎていたら、この絶妙なバランスは生まれなかっただろう。結果としてシングルは70万枚を超えるセールスを記録した。

叫ばずに伝わる“魂”

氷室京介というアーティストの魅力は、ただ“叫ぶ”ことにあるのではない。彼は時に、沈黙の中にも炎を灯せる人だ。『魂を抱いてくれ』は、その象徴ともいえる。

激情と孤独、強さと弱さ――それらをすべて抱きしめるように、彼はただ真っ直ぐに歌っている。それはドラマの世界観を越え、聴く者それぞれの“人生のテーマ曲”のように響いた。

30年経った今聴いても、あの声には一切の古さがない。むしろ、時代を経るほどにリアルになる。夜の静けさの中、ふと流れてきたとき、心の奥の熱を思い出させてくれる。そんな不思議な力を持った曲だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。