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20年前、大人気バンドが挑んだ“初期メンバー脱退後”の【ファーストシングル】とは?

  • 2025.11.8

「混沌と美が交わったあの夜を、覚えてる?」

20年前、2005年の秋。街にはまだCDショップが立ち並び、ネオンの光がCDケースに反射していた。携帯電話の着メロが鳴り響き、夜の渋谷を人々がせわしなく行き交っていた。そんな時代に、東京事変が放った1曲が空気を一変させた。

東京事変『修羅場』(作詞・作曲:椎名林檎)――2005年11月2日発売

フジテレビ系ドラマ『木曜劇場・大奥〜華の乱〜』の主題歌となったこの楽曲は、緊迫感と妖艶さを併せ持つ異色のダンスロック。椎名林檎の感性が、バンドという枠組みを越えて炸裂した作品だった。

新章の幕開け――新体制での“第一声”

この『修羅場』は、東京事変にとっての新しい始まりを告げる1曲でもあった。

初期メンバーの脱退を経て、浮雲(長岡亮介)と伊澤一葉(伊澤啓太郎)を新たに迎えた再編後の最初のシングル。

東京事変はこの曲で、バンドサウンドに打ち込みリズムを導入するという新たな実験を行った。従来のジャズロック的なアンサンブルではなく、電子的でファンキーなビートに軸を置き、さらにスパニッシュ調のガットギターを浮雲が加えることで、独特の緊張感と温度差を生み出している。

冷たさと熱さが同居するリズム構成は、東京事変の新たな武器になった。

音の“修羅場”が描く、狂気と理性のあいだ

『修羅場』を一聴してまず感じるのは、リズムの強さだ。

リズムマシンによる硬質なビートの上で、ピアノとギターが有機的に絡み合い、椎名林檎のボーカルが鋭く切り込む。感情の爆発と、理性による抑制。 そのせめぎ合いが、この曲の最大の魅力だ。

サビでのメロディ展開は激情的でありながら、全体の構成は驚くほど冷静。まるで狂気を緻密に設計しているかのような音の配置は、彼女が「制御されたカオス」を意図的に作り出していることを示している。

「暴れたい衝動を、美しく整える」――そのバランス感覚こそが、東京事変の真骨頂であり、バンドとして唯一無二の存在にした。

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椎名林檎-2003年撮影(C)SANKEI

“大奥”と響き合った濃密な世界観

タイアップとなったドラマ『大奥〜華の乱〜』は、権力と愛憎、嫉妬が渦巻く江戸の女性社会を描いた作品だった。

その世界観に合わせ、東京事変は“粛然とした緊張感”と“艶やかな危うさ”を音で表現した。この曲で印象的なのは、全体に漂う官能と理性の共存だ。サウンド面では、打ち込みによるリズムの冷たさと、ガットギターの有機的な響きがせめぎ合う。

華やかでありながら張り詰めた空気。まさに『大奥』の世界と呼応するように、静かなる戦いの音楽として成立している。“和と洋の融合”というより、むしろ“過去と未来の交錯”。古典的なテーマを、現代的なサウンドで描くという構図が、このコラボレーションを特別なものにしている。

混沌を美に変える力

20年が経った今聴いても、『修羅場』の持つサウンドは少しも古びていない。むしろ、そのストイックな構築美艶やかな毒気は、今の音楽シーンの中でも異彩を放ち続けている。

この曲を聴くたびに思う。音楽とは、秩序の中にある“狂気”をどう扱うかという芸術なのだと。そして椎名林檎と東京事変は、それを最もエレガントな形で体現した。

退廃と官能の狭間で、理性を保ったまま爆発する――『修羅場』は、そんな矛盾の美しさを閉じ込めた、2000年代日本ロック史の中でも屈指の傑作だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。