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35年前、活動休止から復活した“壊れても信じ続ける”矛盾ソング 自らを証明した“再生の一曲”

  • 2025.10.30

「35年前の秋、あなたは何を信じていた?」

1990年、街にはまだバブルの光が残り、夜のネオンはどこか夢のように瞬いていた。だがその奥では、人々の心に“何かが足りない”という予感が静かに広がっていた。そんな時代に、ひとりの青年が帰ってくる

尾崎豊『LOVE WAY』(作詞・作曲:尾崎豊)――1990年10月21日発売

アルバム『誕生』へと続く先行シングルであり、前作『太陽の破片』から実に2年4か月ぶりの新作。作詞・作曲・プロデュースのすべてを自ら担ったセルフプロデュース作だった。活動休止や苦悩を経た尾崎が、再び“音楽で自分を証明する”ために放った一曲が『LOVE WAY』だった。

尾崎の声が変わった瞬間

この曲を初めて聴くと、多くの人がまず“音の質感”に驚く。編曲を手がけたのは星勝。タイトなデジタルビートに支えられたサウンドは、従来のロック的な勢いや荒々しさとは違い、緻密で硬質なグルーヴが全体を包む。

ギターやベースの音も過剰に鳴らすことなく、どこか乾いた空間の中で冷静に構築されている。その上を、尾崎のボーカルが淡々と、しかし確かな熱を持って進んでいく。

かつての『15の夜』や『卒業』で見せた激情的な叫びではなく、ここにあるのは自分の内側と向き合うような“静かな声”。感情を吐き出すのではなく、ひとつひとつの言葉を噛みしめるように歌うその姿は、表現者として新しい段階に入ったことを感じさせた。

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尾崎豊-1991年撮影(C)SANKEI

闇を見つめ、そこから光を探す

『LOVE WAY』の歌詞は、難解だと評されることも多い。

「静寂の中の響き」「満たされぬ心を蹴飛ばし」――詩的な言葉が重なり、具体的な情景を描くよりも、心の迷路を彷徨うような印象を与える。だが、そこには“壊れても、もう一度愛に向かって進もう”という意志が感じられるように思う。

この曲と同じタイトルの小説『LOVE WAY』を、尾崎自身が書いている。そこでは、現実と幻想のあいだで揺れ動く主人公の姿が描かれ、尾崎の“心の旅路”と重なる部分が多い。

1980年代後半、尾崎豊は10代の代弁者として絶大な人気を誇ったが、1988年の活動停止とともに沈黙の時期を迎える。再び音楽に戻った彼は、もはや同じ場所に立つつもりはなかった。

『LOVE WAY』で聴けるのは、反抗の叫びではなく、傷ついた心を自分で修復しようとする音だ。かつては“時代の声”として叫んだ彼が、今度は誰の代弁でもなく、自分だけの言葉で愛と生を歌ったのだ

「愛」という名の孤独

『LOVE WAY』が当時のリスナーに受け入れにくかったのは、尾崎が語る“愛”が、一般的なラブソングとはまるで違っていたからだ。それは優しさでも癒しでもなく、自分を壊しながら誰かを信じるという矛盾した愛。

この曲を聴いたとき、彼の声がどこか遠くに聞こえるのは、そこに“生きることの苦しさ”がそのまま滲んでいるからだろう。

時代の空気がまだ華やかだった1990年に、こんなにも内省的で孤独な作品を出すことは、ある意味で“時代に逆行する勇気”でもあった。だがその孤独は、のちのリスナーたちにとっての“希望のかたち”にもなった。

尾崎の音楽は、暗闇を否定するのではなく、暗闇の中にも意味を見出そうとしたように思う。

今振り返れば、この曲には彼の最晩年を象徴するすべてが詰まっているようにも思える。闇を抱えたまま、それでも愛を信じようとした青年の姿。それは、完成された答えではなく、永遠に続く問いそのものだった。

だからこそ、『LOVE WAY』は聴くたびに表情を変える。悲しみにも、希望にも、赦しにも聞こえる。尾崎豊は、歌の中で生き続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。