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20年前、恋リアバラエティ発の“好きと言えない”もどかしいバラード 恋→愛へ移ろう“静かな一曲”

  • 2025.10.30

「20年前の秋、誰と“恋バナ”をしてた?」

2005年の夜、テレビの中から流れていたのは、柔らかくもどこか切ないメロディだった。TBS系バラエティ『恋するハニカミ!』が放送される金曜夜、照れくさそうに笑う芸能人たちの恋模様を見ながら、部屋の空気が少しだけ甘くなったのを覚えている人も多いだろう。

CHEMISTRY『almost in love』(作詞:H.U.B・作曲:大智、小田原友洋)――2005年11月2日発売

テレビから流れるたびに、「好き」と言えなかった誰かの顔が浮かんだ。恋と愛のあいだにある、曖昧な距離。そのもどかしさを、美しいハーモニーで包み込んだのがこの曲だった。

恋が“愛”に変わる瞬間のように

CHEMISTRYは、堂珍嘉邦と川畑要による男性デュオ。彼らはオーディション番組から誕生した“実力派ボーカルユニット”として注目を浴びた。以降、『PIECES OF A DREAM』や『Point of No Return』などでヒットを記録し、2000年代初頭のJ-POPシーンを代表する存在となっていった。

そんな彼らが『almost in love』で描いたのは、恋が成熟していく過程。浮ついた情熱ではなく、日常の中に息づく“静かな愛”だった。R&Bを基調としたサウンドに、繊細なエレクトリックピアノとストリングスが重なり、CHEMISTRYらしい品のある大人の世界を作り出している。

ボーカルの重なりは、まるで会話のようだ。どちらかが一方的に語るのではなく、寄り添い、聴き合い、少しずつ距離を縮めていく。そのハーモニーは、恋人たちの時間の流れそのものだった。

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2007年、映画『象の背中』の主題歌を担当しインタビューを受けるCHEMISTRY(C)SANKEI

“ハニカミ”とシンクロした空気感

『恋するハニカミ!』のテーマソングとして、この曲は多くの視聴者の記憶に刻まれた。番組の中では芸能人がデートをし、照れながら少しずつ心を通わせていく。その空気感と『almost in love』の温度はぴたりと重なっていた。

当時のバラエティ番組の中でも、『恋するハニカミ!』は異質だった。派手な演出ではなく、沈黙や間の“リアル”を大切にする恋愛番組。そのエンディングに流れるこの曲が、恋の余韻をそっと引き取ってくれたのだ。

だからこそ、多くの人にとってこの曲は「番組の主題歌」以上の存在になった。

また、2005年末の第56回NHK紅白歌合戦では、この曲でCHEMISTRYが出場。柔らかなライトに包まれたステージで、彼らのハーモニーが静かに響いた。あの年の冬、恋人同士でなくても、誰もが“誰かを思う気持ち”を抱えていたのではないだろうか。

静かに響く“ふたりの成熟”

CHEMISTRYの魅力は、テクニックよりも“声の表情”にある。川畑の張りのあるボーカルと、堂珍の滑らかなトーン。それぞれの声が独立しながらも、重なった瞬間に一つの世界が完成する。『almost in love』では、その調和がこれまで以上に深く、穏やかに感じられる。

長岡成貢によるアレンジは非常に丁寧。ストリングスとエレピの配置が絶妙で、余白の中に漂う温度感がたまらない。“ちょうどいい静けさ”が、この曲を唯一無二にしている。

2000年代中盤、音楽シーンではデジタルサウンドが主流になり始めていた。そんな中でCHEMISTRYは、アナログ的な温もりを残しつつ、現代的なR&Bを昇華させた。この曲はその代表例でもある。

20年経っても消えない“余韻”

今聴くと、『almost in love』には恋に臆病で、でも真剣。そんな感情の揺れが、ふたりの声の重なりにそのまま宿っていた。恋と愛の境界線にある、あの微妙な痛み。それを誰もが知っていた時代の空気ごと、この曲は閉じ込めている。

恋愛観も音楽の聴き方も変わった今だからこそ、『almost in love』は当時よりもずっとリアルに響く。あの番組を見ながら胸がきゅっとなった夜を覚えている人には、まるでタイムカプセルのような一曲だ。静かで、優しくて、でも確かに心を揺らす。それが、CHEMISTRYという名の“化学反応”が見せた奇跡だった。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。