1. トップ
  2. 30年前、日本中が聴き惚れた“控えめだけど骨太な”低音サウンド 40万枚を超えた名曲が“弟を怒らせたワケ”

30年前、日本中が聴き惚れた“控えめだけど骨太な”低音サウンド 40万枚を超えた名曲が“弟を怒らせたワケ”

  • 2025.11.2

「30年前の秋、どんな“愛の言葉”を信じていた?」

街の空気が少し冷たく変わり始めた1995年。恋は今よりもずっと“言葉”で結ばれていた。そんな時代に、静かに胸に染みる一曲が流れ始める。

大黒摩季『愛してます』(作詞・作曲:大黒摩季)――1995年11月6日発売

フジテレビ系ドラマ『妊娠ですよ2』の主題歌として書き下ろされたこの曲は、まっすぐで不器用な“愛の告白”を描いたラブソングだ。40万枚を超えるセールスを記録し、秋から冬へと移り変わる季節の中で、街のあちこちに静かに流れていた。

言葉の温度をめぐる、静かなリアリズム

当時の大黒摩季は、『あなただけ見つめてる』や『ら・ら・ら』など、力強く前を向く女性像を歌ってきた存在だった。『愛してます』では、その芯の強さの奥にある、“素直になることの難しさ”が描かれている。

『愛してます』の誕生には、少し意外なエピソードがある。それは、大黒摩季の弟が結婚を控えた頃のこと。

弟が恋人に「愛してるって言って」と何度も求められ、「愛してます」を繰り返すうちに「薄っぺらい」と言われてしまった――そんなやり取り彼女は忘れられなかったという。

“同じ言葉でも、気持ちがこもらなければ届かない。”

そのもどかしさを形にしたのが、この曲だった。実際、大黒はそのエピソードをもとに詞を書き上げたことで、弟に“怒られてしまった”と笑いながら語っている。しかし、そこに込められた「言葉の重み」は、誰もが共感できる普遍のテーマだった。

undefined
2017年、神宮外苑花火大会で歌う大黒摩季(C)SANKEI

音に宿る“控えめな強さ”

楽曲は低音を意識したサウンドで、バンド構成ながらもどこかアナログの温かみがある。派手な展開を避け、静かな起伏で感情を描く構成。

その中で大黒摩季のボーカルは、伸びやかで力強いのに、決して押し付けがましくない。まるで“自分の中の本音”を、そっと聴かせるような声。サビに向かって感情を高めながらも、最後まで理性的に保たれたトーンが、この曲の魅力を際立たせている。

30年後も消えない“言葉の余韻”

主題歌となった『妊娠ですよ2』の物語と呼応するように、“生活の中にある愛”を音で表現している。それはまるで、日々の暮らしの中で繰り返される「愛してる」「ありがとう」のようなリズムに似ている。

愛は、劇的ではなく、続いていくもの。

そんなメッセージが、曲全体に静かに息づいている。

あれから30年。メールやSNSの時代になり、言葉はかつてよりも軽く、速く届くようになった。けれど、その中にある“言葉を届けるための勇気”は、今も変わらず心を打つ。

「愛してます」――その短い言葉にどれだけの想いを込められるか。

大黒摩季が問いかけたそのテーマは、時代を超えてもなお、私たちの胸の奥に響き続けている。静かな夜、誰かを想うその瞬間。あのメロディがふとよみがえり、心のどこかで“言葉にできない愛”を思い出す。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。