1. トップ
  2. 25年前、日本中が“朝の光”に包まれた“透明のバラード” 静けさの中に希望を灯した“優しさの記憶”

25年前、日本中が“朝の光”に包まれた“透明のバラード” 静けさの中に希望を灯した“優しさの記憶”

  • 2025.10.29

「25年前の朝、どんな音が流れていたか覚えてる?」

2000年の秋。街にはミレニアムの風が吹き抜ける中、少し冷たい空気をまとった朝のリビングに、透明な歌声が静かに流れていた。

倉木麻衣『Reach for the sky』(作詞:倉木麻衣・作曲:大野愛果)――2000年11月8日発売

NHK朝の連続テレビ小説『オードリー』の主題歌として全国に届けられたこの曲は、静けさを持ったポップスだった。華やかさやドラマティックな展開ではなく、淡々とした優しさで、聴く人の心に“寄り添う力”を秘めていた。

穏やかな朝に寄り添った声

前年のデビュー以来、R&Bテイストのサウンドと英語詞を交えたスタイルで注目を集めていた倉木麻衣が、“日本の朝”に溶け込むような楽曲を届けた『Reach for the sky』。

作曲を手がけたのは、大野愛果。倉木の日本デビュー曲『Love, Day After Tomorrow』からタッグを組む盟友であり、ビーイング系の作家としてZARDや愛内里菜らを支えていた人物だ。“切なさと清潔感の同居”という彼女の作風は、この曲にも色濃く息づいている。

サウンドプロデュースは、アメリカの制作チームCybersoundのPerry Geyer。エレクトリックピアノを中心に、余白を活かした透明感ある音作りが印象的だ。大野による滑らかなメロディラインと倉木の繊細なボーカルが重なり、まるで朝の光がゆっくり差し込んでくるような温度感を持っていた。

それは、R&Bのグルーヴではなく“呼吸するポップス”。倉木の声が、リズムではなく空気を震わせるように響く一曲だった。

undefined
2024年、デビュー25周年展示会で等身大フィギュアの隣でほほ笑む倉木麻衣(C)SANKEI

“オードリー”が生んだ、もうひとつの風景

岡本綾が主演をつとめたNHK朝の連続テレビ小説『オードリー』は、2000年秋から2001年春にかけて放送された作品。戦後の時代を背景に、夢を追う女性の生き方を描いた物語だ。

『Reach for the sky』は、その主題歌として朝に欠かせない存在となった。毎朝テレビをつければ流れるイントロ。柔らかなストリングスの響きが、まだ眠たい日本のリビングを包み込んでいた。

派手なポップスとは違い、日常の中にそっと寄り添う力を持っていた。いわば“朝の空気そのもの”のように優しく包み込んでくれた。

成熟へのはじまり

この時期、倉木麻衣はまだ18歳になったばかり。だが、彼女の声には年齢を超えた落ち着きがあった。デビューから一気にヒットチャートを賑わせて、ポップアイコンとしての地位を確立しつつあったが、『Reach for the sky』で聴かせたのは、“静かな強さ”だった。

伸びやかで透明感のある高音、息づかいに宿る儚さ。これまでのクールなR&Bスタイルから一歩踏み出し、より感情の温度を感じさせる歌へと変化していく、その最初の一歩がこの曲だった。

そして、今回も彼女自身の作詞によって、“夢を信じて進む”というテーマがごく自然に歌われている。ドラマの内容とも重なりながら、「朝、今日を始めるための歌」として多くのリスナーの背中を押した。

このシングルは累計で40万枚以上を売り上げ、当時のJ-POP市場でも上位にランクインするヒットとなった。当時の倉木の人気を考えれば派手な数字ではないかもしれない。だが、ヒットチャートよりも記憶に残る“優しさ”が、この曲の真価だった。

静けさの中に宿る希望

2000年の日本は、ミレニアムを迎えたばかり。社会も音楽も、次の時代を模索していた。デジタルが進化し、情報が加速していく一方で、心のどこかでは“穏やかさ”を求める声もあった。

『Reach for the sky』は、そんな時代に生まれた“静かな希望”の象徴だった。朝の光のように、派手ではないけれど確かに人を照らす。そんな音楽があったことを、25年経った今、もう一度思い出したくなる。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。