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25年前、ジャンルの枠を超えた“日本情緒ただよう”クラブサウンド リゾートCM発の“穏やかな南国ソング”

  • 2025.10.29

「25年前の夏、あなたはどこで風を感じていた?」

2000年の初夏。街にはデジタルの光が溶け込み、交差点を歩く人々の耳には、新しい音が流れ始めていた。テクノでもポップでもない、もっと自由で、もっと心地よい“クラブ・ミュージック”。そんな時代の空気を象徴するかのように、ひとつのサウンドが流れ出した。

MONDO GROSSO『LIFE feat.bird』(作詞:bird・作曲:Shinichi Osawa、Yoshito Tanaka)――2000年5月24日発売

海風とリズムが混ざり合う、2000年の青

この曲の冒頭を聴いた瞬間、ふっと潮の匂いがする。ブラジリアン・ハウス特有の軽やかなパーカッション、そしてbirdの柔らかな歌声。それはまるで、海辺のカフェで風を感じながら聴くような“開放感”と“余白”のある音だった。

大沢伸一が率いるMONDO GROSSOは、1990年代初頭のアシッドジャズ・ムーブメントをけん引した存在として知られている。京都での結成から、クラブカルチャーを背景に進化を遂げ、1996年以降は大沢のソロ・プロジェクトに。レーベル移籍を経て、『LIFE feat.bird』は、新章の幕開けを告げるシングルとなった。

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2013年、ルイ・ヴィトン「Timeless Muses(時を超えるミューズたち)展」内覧会に登場したMONDO GROSSOの大沢伸一(C)SANKEI

クラブの熱と南国の風が同居したサウンド

『LIFE feat.bird』は、当時のクラブ・シーンでは珍しく“温かい”トーンを持っていた。電子音が主流になりつつある中で、この曲は生楽器のグルーヴを感じさせ、「踊れるのに癒される」という絶妙なバランスを実現していた。

birdの歌声は、ただのフィーチャリングではなく、音楽そのものの一部として溶け込んでいる。彼女の持つジャズやソウルのニュアンスが、大沢の洗練されたトラックに有機的な生命力を与えていた。

夏の沖縄を舞台にしたANAの「夏の沖縄キャンペーン」CMソングとして使用されたのも納得だ。潮騒のように流れるリズム、柔らかく光るメロディ。それは、リゾート広告にとどまらない“2000年の日本が夢見た理想の夏”を描いていた。

クールでいて、どこか人肌のぬくもり

当時、MONDO GROSSOの音楽は「海外っぽい」と評された。しかし、この『LIFE』には“日本的な情緒”があるように思う。

細やかな間の取り方、birdの語りかけるようなボーカルライン、そしてリズムの抜き差し。そのすべてが、都市の喧騒と静けさのあいだを漂っているようだった。

カップリングには、当時イギリスなどを中心に流行していたサウンド「2STEP」アレンジの英語バージョンが収録されており、こちらではFACEがボーカルと作詞を担当。クラブカルチャーが急速にグローバル化していく中で、MONDO GROSSOがその“国境を越えるサウンド”を体現していたことがわかる。

クラブミュージックを“ポップスの地平”へ

2000年当時、クラブ・ミュージックはまだ「一部の音楽好きのもの」という印象が強かった。だが、この曲はその壁を軽やかに超えていった。

ラジオやCMを通じて幅広い層に届き、クラブサウンドとしては異例の10万枚以上を売り上げるヒットとなる。その背景には、音の“気持ちよさ”を誰もが共有できる、ジャンルを超えた普遍性があった。

リリースから19年後の2019年、ANAのCMソングとして再び採用されたことも象徴的だ。あの時代の“夏の音”が、令和の空にもまだ似合う。それほどまでに、『LIFE feat.bird』が刻んだ空気は鮮烈だった。

夏の記憶は、音で蘇る

25年前の風を思い出すとき、そこには必ずこのリズムが流れている気がする。クラブでも、リゾートでも、部屋の窓を開けた夜でも――“LIFE”という言葉のとおり、聴く人それぞれの「生きる瞬間」に寄り添う曲。だからこそ、時を経ても色褪せずに息づいているのだろう。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。