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35年前、テレビから流れた“明るいけど哀しい”希望ソング リアルな感情が息づく“小室サウンドの原型”

  • 2025.10.31

「35年前の空、どんな風が吹いていた?」

1990年。街にはまだバブルの残り香が漂いながらも、人々の胸の奥では“次の時代へのざわめき”が静かに広がっていた。テレビからは軽やかなメロディが流れ、誰もが未来という言葉に少しの期待と不安を抱いていた。

渡辺美里『Power -明日の子供-』(作詞:渡辺美里・作曲:小室哲哉)――1990年9月21日発売

この曲は、同年7月発売のアルバム『tokyo』からのシングルカットとして発表され、渡辺自身が出演した明治生命(現・明治安田生命)のCMソングにも起用された。

明日へ向かう“風”を歌った一曲

1980年代後半、渡辺美里は『My Revolution』(作詞:川村真澄・作曲:小室哲哉)などで人気を確立し、女性ボーカリストとしての新しいスタイルを切り開いていた。そんな彼女が1990年に放ったこの『Power -明日の子供-』は、“未来へ進むための希望”を歌った一曲だ。

歌詞に登場するのは、修学旅行の記念写真、カセットテープ、友人たちとの別れ、そして「明日の子供達」という希望の象徴。そこには、成長していく過程の寂しさと、それでも前へ進む勇気が混ざり合っている。渡辺のまっすぐな声が、まるで空へ放たれる風のように響き渡り、聴く人それぞれの“未来のかたち”を呼び起こす。

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1998年、西武球場コンサートで歌う渡辺美里(C)SANKEI

小室哲哉が描いた“光のメロディ”

作曲は小室哲哉。この曲では光をたぐるようなメロディが追求されているように思える。シンセサイザーの粒立ちがやさしく広がり、リズムが地面を蹴るように前に進む。その上で、メロディラインはどこかに哀しみを含みながらも、確実に希望の方向へと導いていく。この“明るいのに切ない”音像が、のちの小室サウンドの原型ともいえる

渡辺とは『My Revolution』から続く信頼関係の延長線上にあり、さらにカップリング曲『Kick Off』では、小室と同じTM NETWORKの木根尚登が作曲を担当。まるで“チームTMと美里の共同体”のような空気感が生まれ、音楽的にも連続性を持っている。

渡辺美里が歌う“時代の真ん中”

渡辺自身の作詞も大きな魅力だ。「明日の子供達」「光の子供達」という言葉には、次の世代へ思いをつなぐメッセージが込められている。それは大人になりきれない不安や、夢を追う若者の戸惑いを抱えながらも、“それでも歩き出す”という優しい決意だ。

この曲の中には、特定の恋も悲しみもない。けれど、そのどちらよりもリアルな“生きる感情”が息づいている。まっすぐで少し青い詞の世界と、小室の柔らかなメロディが重なり、聴く人の背中をそっと押してくれる

風が吹くたび、思い出す“あの頃の勇気”

『Power -明日の子供-』は、単なる青春の記録ではなく、「何度でもやり直せる力」を描いてくれているように思う。あの日感じた風の匂い、友だちと笑い合った声、そして未来を信じようとした瞬間。それらすべてが、この曲の中で優しく呼吸している。

そして今も、ふとこの曲が流れると、心のどこかであの頃の自分が立ち上がる。前を見つめながら、風の中を歩き出す――そんな不思議な力を持つ歌だ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。