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遺族「返金してほしい」亡くなった家族のサブスク…自動更新は返金できる?→弁護士が明かす、“法律の落とし穴”とは

  • 2025.10.29
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

動画配信、音楽、ニュースサイト、ソフトウェア…。私たちの生活に欠かせないサブスクリプションサービス(サブスク)ですが、契約者が亡くなった後、その扱いはどうなるのでしょうか。遺族が契約の存在に気づかず、故人のクレジットカードや銀行口座から料金が“自動更新”で引き落とされ続けるケースが社会問題化しています。

「故人はサービスを利用していないのだから、死後に支払った分は返金してほしい」と考える遺族は少なくありません。その要求は法的に認められるのでしょうか。

今回は、増加する「デジタル遺品」のトラブルの一つであるサブスクの死後解約と返金問題、そして遺族が困らないために生前にできる備えについて、ベリーベスト法律事務所 齊田貴士 弁護士に解説していただきます。

死後に支払われたサブスク料金の返金は可能?

結論から言うと、故人の死後に自動更新で支払われたサブスク料金を、遺族がサービス提供会社に返金してもらうことは、法的には極めて難しいと考えられます。

「事情を説明すれば返してもらえるのでは?」と思うかもしれませんが、法律や契約の世界では、そう単純ではありません。

なぜ返金は難しい?契約者の死亡で契約は無効にならないのか

返金が難しい最大の理由は、利用者が亡くなっても、サブスクの利用契約は自動的に終了(無効化)しないからです。

契約者が亡くなっても、契約自体は有効なまま存続します。そして、多くのサービスの利用規約では、『サービスの未使用期間があっても料金は返金しない』旨が定められていることが基本です。

この2つの理由から、法的な返金義務を事業者に負わせることは困難なのです。

サービス提供会社は、遺族から連絡があるまで契約者の死亡を知るすべがありません。そのため、遺族が解約手続きをしない限り、契約は有効なものとして自動更新され、料金が引き落とされ続けることになるのです。

例外的な返金や、交渉の余地は?

法的には返金を求めるのが難しいとしても、諦めるしかないのでしょうか。

この点について弁護士は、「法律論とは別に、交渉の余地は残されているかもしれません」と指摘します。

「結局は人と人とのやり取りです。事情を丁寧に説明し、死亡の事実がわかる書類などを提示することで、事業者が例外的な対応として一部または全額の返金に応じてくれる可能性はゼロではありません」。

これはあくまで事業者の厚意による対応であり、法的な権利ではないことを理解した上で、一度相談してみる価値はあるでしょう。

遺族はどうやってサブスクを探し、解約すればいい?

返金が難しい以上、遺族がすべきことは、契約を一つでも早く見つけ出し、解約することです。

しかし、故人が何を契約していたかを把握するのは簡単ではありません。以下の方法で網羅的に探す必要があります。

  1. 支払い履歴を確認する
    最も確実な方法です。クレジットカードの利用明細、銀行口座の取引履歴、PayPalなどの決済サービスの履歴を過去1年分ほど遡って確認し、毎月決まった金額が引き落とされている項目を探します。
  2. デバイスやメールを確認する
    故人のスマートフォンやパソコンが操作できるなら、中身を確認しましょう。
  3. スマホの管理画面
    iPhoneなら「設定」→「Apple ID」→「サブスクリプション」、Androidなら「Google Play ストア」アプリの「定期購入」から、利用中のサービス一覧を確認できます。
  4. メール
    受信ボックスを「サブスクリプション」「定期購入」「請求書」「更新」などのキーワードで検索すると、契約更新や支払い完了の通知が見つかることがあります。
  5. アプリ
    ホーム画面に見慣れないアプリがあれば、それがサブスクサービスの可能性があります。
  6. 郵便物を確認する
    数は少ないですが、サービスによっては請求書や案内が郵送で届く場合があります。

契約しているサービスが特定できたら、各サービスのサポート窓口やお問い合わせフォームに連絡します。その際、「契約者本人が死亡したため、解約したい」旨を伝え、必要な手続きや書類(死亡診断書のコピー、戸籍謄本など、本人との関係を証明する書類)を確認し、速やかに手続きを進めましょう。

死後のトラブルを避けるために、生前にできる対策は?

こうした死後の手続きの煩雑さを避けるために、最も有効なのは生前の対策です。

日頃から、自分がどういったサブスクを利用しているのかをリスト化し、家族と共有しておくことが何より重要です

サービス名、ログインID、そして料金の支払い方法(どのクレジットカードかなど)を一覧にしておくだけで、いざという時の遺族の負担は劇的に軽くなります。エンディングノートや信頼できるパスワード管理アプリなどを活用し、万が一の時に家族がその情報にアクセスできるように備えておくことが、現代における必須の終活と言えるでしょう。

デジタル時代の新たな「遺品整理」

サブスクリプションサービスは私たちの生活を豊かにしますが、それは同時に、死後に家族へ負担を残す「デジタル遺品」にもなり得ます。

故人が利用していないサービスのために、遺産からお金が失われ続けるのは誰にとっても不幸なことです。法的に返金を求めることは難しいからこそ、遺族は一日も早く契約を見つけて解約手続きを行う必要があります。

そして何より、私たち自身が元気なうちに、自らの「デジタル資産」を整理し、その情報を家族に共有しておくこと。それが、残される家族への最大の思いやりとなるのです。


監修者名:ベリーベスト法律事務所 弁護士 齊田貴士

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神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。