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客「お金は払いたくない」居酒屋で出された“お通し”…→支払う義務はある?拒否できる“条件”とは【法律のプロが解説】

  • 2025.10.17
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

居酒屋で席に着くと、注文していないのに小鉢料理が運ばれてくる「お通し」。会計時に料金が加算されていて、戸惑った経験を持つ人も少なくありません。

これは日本の居酒屋文化の一つですが、「頼んでいないものにお金は払いたくない」と感じるのも自然な感情です。法的には、このお通しの代金を支払う義務は本当にあるのでしょうか。

今回は、この身近な疑問について、契約のルールを専門とする法律のプロに、支払い義務が発生する条件や、スマートな断り方までベリーベスト法律事務所 齊田貴士 弁護士に解説していただきます。

支払い義務は「契約が成立しているか」で決まる

まず法的な結論から言うと、お通しの代金を支払う義務が「ある場合」と「ない場合」の両方が存在します。

その分かれ目となるのが、店と客の間で、お通しに関する「契約」が成立したとみなされるかどうかです。

では、どのような場合に契約が成立し、支払い義務が発生するのでしょうか。

支払い義務が「ある」2つのケース

齊田弁護士によると、支払い義務が発生するのは主に以下の2つのパターンです。

ケース1:事前に説明があった場合
入店時や席に着いた際に、店員から口頭で「当店ではお一人様〇〇円のお通しをお出ししています」と説明があったり、メニューや店内の掲示に「お通し代〇〇円」と明記されていたりする場合です。

この場合、客はお通しが有料であることを認識した上で店の利用を選択したとみなされ、お通しに関する売買契約が成立します。

いわば、店の利用ルールに同意したことになるため、支払い義務が生じます。

ただし、お店側も客にわかりやすく伝える努力が求められます。例えば、メニューの隅にごく小さい文字で書かれているだけ、といったケースでは、客が「知らなかった」として契約の無効(錯誤取消し)を主張できる可能性も残されています。

ケース2:説明がなくても「食べてしまった」場合
たとえ事前の説明が一切なかったとしても、提供されたお通しに手をつけてしまった(食べてしまった)場合は、原則として支払い義務が発生します。

これは法律上、「黙示の承諾」があったとみなされるためです。

店側が『このお通しを有料で提供します』と申し出(申込)、それに対して客が食べるという行為で『承諾』の意思を示した、と解釈されます。言葉に出さなくても、行動によって契約が成立するのです。

支払い義務が「ない」のはどんな時?

逆に、支払いを拒否できるのはどのようなケースでしょうか。それは、以下の条件を両方とも満たす場合に限られます。

  • 条件1:店からの事前説明(口頭や表記)が一切なかった
  • 条件2:提供されたお通しに一切手をつけていない(食べていない)

この状況では、お通しに関する売買契約が成立していないため、客には代金を支払う法的な義務はありません。法的根拠は、シンプルに「契約していないから」ということになります。

断るならいつ?スマートな対応法とは

トラブルを避けるためには、断るタイミングと伝え方が重要です。

ベストなタイミングは「提供された直後」 断る意思を示す最も適切なタイミングは、お通しがテーブルに置かれ、手をつける前です。この段階であれば、まだ契約は成立していません。「すみません、お通しは結構です」と明確に伝えれば、支払いを拒否することができます。前述の通り、一度でも食べてしまえば「黙示の承諾」が成立し、断ることはできなくなります。

最もスマートなのは「事前の確認」。そもそもトラブルを避けるためには、先に行動するのが最も確実です。

予約時や入店時、あるいは最初のドリンクを注文する際に、『こちらはお通しは出ますか?』『お通しはなしでお願いできますか?』と先に確認・伝えてしまうのが最もスマートです。

ただし、注意点もあります。お店によっては「お通し(または席料)をいただく」ことが店の利用条件となっている場合があります。その場合、お通しを断ることは、お店の利用ルールを拒否することになるため、お店側から入店や利用そのものを断られる可能性もあることは理解しておきましょう。

支払い義務の鍵は「食べる前の意思表示」

居酒屋のお通しをめぐる問題は、「頼んでいないのに」という感情論と、「お店のルールだから」という商慣習がぶつかる典型例です。

法的な観点から整理すると、ポイントは非常にシンプルです。

  • 事前に説明があったり、食べてしまったりすれば「契約成立」となり、支払い義務が生じる。
  • 事前説明がなく、かつ食べていなければ「契約不成立」であり、支払い義務はない。

最も確実なトラブル回避策は、入店時や注文時に事前確認すること。もし確認しそびれてお通しが出てきた場合は、食べる前に「不要です」とはっきりと意思表示をすることが、自分のお財布を守るための重要な行動となります。


監修者名:ベリーベスト法律事務所 弁護士 齊田貴士

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神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。