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弁護士「既存の法律では対応できない」AIで顔を無断合成→拡散される“ディープフェイクポルノ”…現行法でどこまで処分される?

  • 2025.10.16
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

AI技術を用いて他人の顔を無断で合成し、アダルト動画や画像に仕立てる――いわゆる「ディープフェイクポルノ」。

近年、SNSや動画サイトを通じて拡散され、深刻な人権侵害として大きな問題になっています。海外ではすでに規制法が整備されつつありますが、日本では既存の刑法や名誉毀損罪で対応するしかなく、「新たな性犯罪」として位置づけるべきではないかという議論も高まっています。

では現行法ではどこまで裁けるのでしょうか。弁護士の見解をまとめました。

現行法で処罰され得る範囲

ディープフェイクポルノは、内容や状況によって複数の罪に問われる可能性があります。

  • 名誉毀損罪(3年以下の懲役または50万円以下の罰金):性的な動画や画像に利用されると、あたかも被害者が出演しているかのような印象を与え、社会的評価を低下させるため適用される可能性があります。
  • 著作権侵害:既存のアダルト作品を改変して利用した場合は著作権法違反となり、10年以下の懲役または1,000万円以下の罰金など重い処罰が科されることもあります。
  • わいせつ物頒布等罪(2年以下の懲役または250万円以下の罰金等):わいせつな映像を不特定多数に公開した場合に適用されます。
  • 児童ポルノ禁止法違反:被害者が未成年であれば、児童ポルノの製造・頒布としてさらに重い処罰対象となります。

「代替的性犯罪」としての課題

現行法で一定の処罰は可能ですが、被害者の性的羞恥心や人格権を直接的に侵害する行為であるにもかかわらず、既存の法律では十分に対応できない場面があります。

量刑が軽い、あるいは行為類型が想定されていない、といった点から、「新種の性犯罪」として立法で明確に規制すべきだという意見が強まっています。

海外との比較と日本の動き

海外ではディープフェイクを規制する法律が整備されつつあり、日本でも鳥取県が青少年健全育成条例を改正してディープフェイクポルノを禁止するなど、地域レベルでの規制が始まっています。

国会でも法整備が審議されており、国際的な動きに合わせて日本でも早期の制度化が課題といえるでしょう。

被害者が取り得る救済手段

現状で被害者ができるのは、

  • 削除請求:プラットフォームやサイト運営者に対して削除を申し立てる
  • 損害賠償請求:精神的損害や社会的評価の低下に対して民事的に請求する
  • 刑事告訴・告発:名誉毀損やわいせつ物頒布等罪として警察に被害を届け出る

といった手段です。しかし現行法では根本的な抑止力に欠けるため、将来的にはディープフェイクポルノを直接的に規制する新法の成立が想定されています。

まとめ

ディープフェイクポルノは現行法でも名誉毀損罪や著作権侵害、わいせつ物頒布等罪などで処罰され得ますが、被害者の人格権を深く傷つける行為に対して十分な対応ができているとはいえません。

海外では規制法が整いつつあり、日本でも一部自治体や国会で議論が進められています。被害者にできるのは削除請求や損害賠償請求といった限られた手段にとどまるため、抜本的な防止策として「新たな性犯罪」としての法整備が急務といえるでしょう。


監修者名:ベリーベスト法律事務所 弁護士 齊田貴士

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神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。