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40年前、ヒロインが結婚前に歌った“別れの予感”ソング 少女→大人へ昇華した“節目のシングル”

  • 2025.11.3

「40年前の春、あなたはどんな空を見ていましたか?」

街を歩けば、風がやわらかく頬をなでる季節。昭和の終盤、まだ空気のどこかに“甘い余韻”が残っていた1985年の初夏。そんな時代に、ひとりの女性が人生の新しい扉を開こうとしていた。

松田聖子『ボーイの季節』(作詞・作曲:尾崎亜美)――1985年5月9日発売

“アイドルの女王”が結婚を控える中で届けたこの曲は、劇場用アニメ『ペンギンズ・メモリー 幸福物語』の主題歌として制作された。恋の季節を描きながら、どこかに“別れ”の気配が漂うそんな一曲だった。

さよならの予感が香る、節目のシングル

1985年の春、松田聖子は国民的な人気の頂点に立ちながら、結婚という大きな節目を迎えていた。翌月に挙式を予定し、その前にリリースされた『ボーイの季節』は、当時の聖子にとって特別な意味を持つ作品だった。

前作『天使のウィンク』に続き、作詞・作曲を手がけたのは尾崎亜美。尾崎ならではの繊細で都会的なメロディが、これまでの聖子の作品群の中でもとりわけ柔らかく響く。まるで“春の光”のように優しく、でも確かに“切なさ”を感じさせる。その旋律には、彼女自身の人生が重なっていたのかもしれない。

映画の余韻とともに響いた“静かな温度”

『ペンギンズ・メモリー 幸福物語』は、サントリーのビールCMで人気を博したペンギンを主人公に描いた、劇場用アニメーション作品だった。柔らかなタッチで綴られた映像と、どこかノスタルジックな世界観。そのエンディングに流れる松田聖子の歌声は、まるで物語の余韻そのもののように観客の胸に染み入った。

派手さではなく、静かな温度で心を包み込む――そんな存在感がこの曲の真価だった。

当時、彼女がテレビでこの曲を披露する機会はほとんどなかった。だが、その「静かな存在感」こそが、この曲の印象をより強くしている。

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松田聖子-1984年撮影 (C)SANKEI

尾崎亜美が導いた、成熟へのステップ

尾崎亜美松田聖子に楽曲を提供した作品といえば、『天使のウィンク』と『ボーイの季節』がやはり代表だろう。どちらも“少女の感情”を描きながら、どこかに大人への入り口を感じさせるものだった。

『天使のウィンク』が無邪気な恋の喜びを弾けるように描いたのに対し、この曲では“切なさ”を包み込むように歌わせた。

同じ作家による表現の連なりの中で、松田聖子という存在は少しずつ変化していく。可憐さを保ちながらも、どこかに“自立した女性”の気配を漂わせる――それがこの時期の聖子の大きな魅力だった。

尾崎のメロディには、いつも「愛の余白」がある。派手なサビや技巧的な構成ではなく、余韻や沈黙の中で感情を伝える作風が、聖子の声に不思議な深みを与えていた。

“可愛いアイドル”から、“感情を音で描くアーティスト”へ。『ボーイの季節』は、その変化を象徴する一曲と言えるだろう。事実、松田聖子はこの後にSEIKOとなり、よりアーティスト色を強くしていく。

結婚、変化、そして“時代”の転換点に立って

『ボーイの季節』がリリースされた1985年。テレビの中にはまだ聖子スマイルがあふれていたが、彼女自身は新しい人生を歩み出していた。ファンにとっては、どこか切なく、でも温かい気持ちで見送る春だった。

この曲が描く“切なさ”は、聖子自身の“ひとつの時代の終わり”と重なっていた。だからこそ、ただの主題歌でも、ただのシングルでもなかった。聴く人それぞれの“人生の季節”を思い出させるような、穏やかな輝きを放っていた。

静けさの中に残る、永遠の声

40年の時を経た今、改めてこの曲を聴くと、そこにあるのは“別れ”ではなく“温もり”だ。松田聖子の声には、どんな時代の風も受け止めてしまう包容力がある。『ボーイの季節』は、彼女が見せた“儚さと強さ”の交差点。それは、時代を超えても変わらない“聖子の原点”そのものだ。

静かに去りゆく春の夕暮れ、ふと耳にしたこの歌が、心の奥のやわらかい場所をそっと撫でてくれる。それは、あの日の風と同じ優しさ。そして、あの頃の私たちが確かに感じていた“季節の匂い”なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。