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見逃し配信200万回再生超えの好発進!【新・金曜ドラマ】たどりつく先は“母性神話への切り込み”か“旧来の構造”か…?

  • 2025.10.21

TBS系 金曜ドラマ『フェイクマミー』は、第1話からTVer再生数が200万回を突破する好発進を見せた。波瑠と川栄李奈という実力派のダブル主演に加え、“母親のなりすまし”というこれまでにない設定が、視聴者の興味を大きくかき立てたのだろう。本作は単なるホームドラマでも子育て奮闘記でもない。むしろ、現代社会が女性に課してきた母性神話や、女は家庭を守るべきという価値観に、正面から切り込む可能性を秘めた作品である。しかし同時に、本作が進む方向によっては、“結局、女性は母になってこそ幸せ”という旧態依然とした物語へ回収される危険も孕んでいる。本稿では、その両義性を検証したい。

“独身女性”と“母親”という対立軸を超える、新たなシスターフッドの形

本作を読み解くポイントは、主人公・花村薫(波瑠)と日高茉海恵(川栄李奈)の関係性にある。

薫は東大卒の元エリート会社員。独身で子どももおらず、社会的には“自由で羨ましい側”に見られがちな立場だ。しかし、現実には転職活動に苦戦し、独身かつ子どものいない女性は「独身で子どものいない女性は、多様性に含まれないということでしょうか?」と嘆く。SNS上でも、このセリフに対する共感の声が多くみられた。

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金曜ドラマ『フェイクマミー』第2話(C)TBS

対する茉海恵は、元ヤン上がりのやり手社長でありシングルマザー。キャラは正反対でありながら、互いのなかにある“社会からの疎外感”を嗅ぎ取り、敵対ではなく共闘の道を選ぶ。その構図が、多くの視聴者の共感を呼んでいる。

特筆すべきは、このふたりが“母か母でないか”という立場の違いではなく、“どう生きたいか”という価値観を土台にして向き合っている点である。既婚か独身か、子どもの有無といった区分によって分断されるのではなく、女性同士が互いの選択を尊重し合う姿が描かれる点で、本作は現代ドラマとして大きな意味を持つ。

“母になること”が女性の究極的到達点とされる危うさ

波瑠は薫の内に抱えた苛立ちと孤独を、無駄な誇張なく丁寧に演じている。声を荒げずとも、その静かな怒りと疲労が画面からじわりとにじみ出る。

川栄李奈演じる茉海恵は、荒々しさと母性を同時に内包した存在だ。彼女の堂々とした立ち振る舞いは、世間に対し母であることを隠しながらも、娘への愛を貫く誇りを感じさせる。波瑠の“内にこもる火種”と川栄の“外向きの熱”という演技の温度差が、物語に厚みと緊張を与えている。

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金曜ドラマ『フェイクマミー』第2話(C)TBS

問題は、物語の進行によっては“薫が偽母業を通じて成長し、本当の幸せを見つける=母性の獲得こそが彼女にとっての救いである”という方向に回収される可能性がある点である。

確かに第2話以降では、薫は茉海恵や娘のいろはと共に過ごすなかで、仕事では得られなかった人間的なやりがいを感じ始めているようにも見える。しかし、それが“結局、女性は誰かをケアすることで輝く存在”という旧来の価値観を肯定する方向に向かってしまうなら、本作の魅力は途端に輝きを失う。

母になることは尊い選択のひとつである。しかし、女性に残された唯一の幸福モデルではない。薫が抱える“自分という個人として生きたい”という切実な欲求が、偽母業のなかで都合よく“解決”されてしまったとき、本作は女性視聴者の信頼を裏切ることになるだろう。

フェイク(偽り)からこそ、本物は生まれる

この物語が真に価値あるものとなるのは、“フェイク(偽り)”の母から始まる薫の旅が、“母になるか否か”ではなく、“自分自身としていかに生きたいか”という問いに行き着く瞬間である。母業は能力でも義務でもなく、“選べる選択肢のひとつ”として描かれるべきであって、女性の帰結点として描かれるべきではない。

むしろ本作が示そうとしている希望は、“家族は血縁だけでは成立せず、選び取る関係性として構築し直せる”という点にある。そうであるならば、このドラマが描くべきは、薫や茉海恵、いろはという血のつながらない3人が、母性や家族の概念を“再定義していく物語”であるべきだ。

『フェイクマミー』は、フェイク(偽り)という手段を用いて、本物の人生と幸福を問うドラマである。この作品が成功作となるか失速するかは、今後の展開が“女性の生き方は母性に回収される”という旧来の構造に戻るのか、それとも“母であるか否かに関係なく輝ける人生”を提示できるかにかかっている

視聴者が求めているのは、母になるかどうかという二元論ではない。どんな生き方も、自分で選び取ったのなら、それが正しい。そんな真っ当なメッセージである。本作がその境地にたどりつけるのか、今後の展開に注目したい。


参照:@TVer_official|TVer公式X(10月17日投稿)より

TBS系 金曜ドラマ『フェイクマミー』毎週金曜よる10時〜

ライター:北村有(Kitamura Yuu)
主にドラマや映画のレビュー、役者や監督インタビュー、書評コラムなどを担当するライター。可処分時間はドラマや映画鑑賞、読書に割いている。X(旧Twitter):@yuu_uu_