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ピリングス、“まいばすけっと”から紡ぐエモーショナルな日常着【2026年春夏 東京コレクション】

  • 2025.9.4

9月3日(水)、ピリングスPILLINGS)が2026年春夏コレクションを東京・千駄ヶ谷にある 新光第二ビルで発表した。前身のリョウタムラカミ(RYOTAMURAKAMI)をスタートしてから12シーズン目となる。前回はこれまでの集大成として過去のものづくりを辿り、ニッターたちとのコミュニケーションから生まれるユニークな素材使いや、あえて歪みを効かせたディテールで現代社会に生きる生身の人間像を表現。社会との折り合いの難しさ、どこか内向的でありながらも前向きなメッセージで着る人の心に寄り添ってきた。今シーズンはそこから少し外の世界に目を向け、「マイバスケット」をテーマに日本のリアルな日常服に落とし込んだ。

同コレクションのインスピレーション源についてデザイナーの村上はこう語る。「海外からみる原宿カワイイやオタクカルチャー、アヴァンギャルドといった分かりやすいものではなく、実は隠れがちな日本人のリアルな日常服に着目しました。まだ言語化されていない洋服たち、そこに丁寧に向き合いたかった。『マイバスケット』というテーマは、いわゆる“まいばす”のこと。日常のルー ティンのようなもので便利でなんでも手に入る、でもどこかちょっともの足りないような……。 今の時代感を象徴する場所のような気がしました。『マイバスケット』は抽象的な共通言語として、そういった場所が誰にでもあるんじゃないかなって」

ファーストルックは布の折れ目で緩やかなカーブを描くシースルートップスと、立体的に浮かび上がったポケットが印象的なクロップドパンツだ。主張は控えめでありながらもさりげなく装飾的な美しさを纏い、内向的な世界から外の世界へ、前向きに歩む新たな人間像としてブランドの意志を感じとることができる。

ポケットの内袋を大胆にアレンジしたモチーフは、これまでのコレクションでたびたび使用されており、今シーズンもパンツやニットに用いられている。ピリングスにとってシェイプの考え方は身体に対してのアプローチではなく、心のカタチ、エモーショナルなものを投影している。こういっ たポケットのあしらいも、一見表面では見えづらい心のわだかまりであったり、人間の表と裏に紐付けられた強さと弱さが見てとれる。

ほのかなフェミニニティを感じさせるキャソールには微妙なシワを入れ、スカートのベルトは二重構造に。少しの歪みやディテールの凹凸によって、日常のささいな感情や情緒のようなものを衣服に落とし込んでいるようだ。

モデルたちのヘアスタイルは、自然な髪のうねりをそのままにリアルな日常を表現。どこか気だるげでうつろげな表情も内面に秘めた深い感情を物語っているように感じる。

ショーの中盤差し掛かると、ピリングスが得意とするニットウエアも登場。華やかなフラワーモチーフがあしらわれたニットカーディガンは内側が変形構造に。歪みやズレによってユニークな曲線のラインを描き、新たなクラシックを表現してみせた。

NHKの子供向け番組『おかあさんといっしょ』の人形劇コーナー、「にこにこ、ぷん」とのコラボも。懐かしい人気キャラクターたちの刺繍がワンポイントとなり、どことなく愛おしさを感じさせる。今回のタッグについて、「幼少期のころ母が編んでくれたのが、じゃじゃ丸のセーターでした。ブランドをはじめようと思った原点でもあり、このタイミングをきっかけに実現することができました」と村上デザイナー。

ショーを終えた後、改めてテーマについて聞いてみると、「社会との折り合いや距離感に疑問を持つ、それがひとつのコンセプトになっています。もちろん現代社会を否定したいのではなく、そういう場所に生かされてる自分たちもいる。そういった時代感を表現したかった」。ベーシックなアイテムもシワや、ねじれ、歪みをあしらうことで、時代とともに変わりゆく心の内と外の変化を投影しているようだ。ショーの後半では、ショルダーバッグを斜めがけしたアクティブなルックも。村上デザイナーはこう続ける。「部屋から外の世界に出る最初の1歩のようなイメージ。 バッグを持って“まいばす”に行くような感覚で。でも人によってはそれが大冒険なのかもしれない」と。

Photos: Gorunway.com

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