1. トップ
  2. 住宅ローン『早めに返済すべき』は勘違いだった 繰り上げ返済が招く、“思わぬ誤算”とは【お金のプロが解説】

住宅ローン『早めに返済すべき』は勘違いだった 繰り上げ返済が招く、“思わぬ誤算”とは【お金のプロが解説】

  • 2025.11.21
undefined
出典元:photoAC(※画像はイメージです)

しかし、低金利が続く現在、単純に繰り上げ返済を急ぐことが必ずしも得策とは限りません。

今回の記事では、「金利」「家計の安全性」「人生の柔軟性」という3つの視点から、繰り上げ返済と手元資金の維持、それぞれのメリットとリスクを1級ファイナンシャル・プランニング技能士 柴田充輝さんの見解を基にわかりやすく解説します。

住宅ローン返済の判断に迷う方にとって、重要なポイントが見えてくるはずです。

低金利時代の住宅ローン繰り上げ返済は慎重に考えるべき理由

---住宅ローンを繰り上げ返済で早く終わらせるべきか、それとも手元資金を維持しゆっくり返済すべきか、その判断の根本にある基準や、家計に与える本質的な影響についてご教示いただけますでしょうか?

柴田充輝さん:

「住宅ローンの繰り上げ返済をするか、手元資金を維持してゆっくり返済するかの判断は、「金利」「家計の安全性」「人生の柔軟性」という3つの視点から総合的に考える必要があります。

例えば、住宅ローン金利が0.5%という低金利の場合、100万円を繰り上げ返済しても年間で節約できる利息は5,000円程度です。一方で、その100万円を手元に置いておけば、急な医療費や子供の教育費、家電の故障など予期せぬ出費に対応できます。手元資金が十分でない場合、いつでも自由に使えるお金を手元に置いておくことは、は金利以上に重要な場合が多いのです。

「家計の安全性」という観点では、一般的に生活費の6ヶ月分以上の預貯金を確保してから繰り上げ返済を検討すべきとされています。なぜなら、繰り上げ返済した資金は基本的に取り戻すことができないからです。仮に失業や病気で収入が途絶えた場合、手元資金がなければ住宅ローンの返済自体が困難になり、最悪の場合は自宅を手放すことになりかねません。

特に、子どもが成長して今後教育費の負担が増えると見込まれる場合、手元資金を手厚く用意しておいたほうが安心できるかもしれません。教育費のピークが過ぎた後に繰り上げ返済を検討するのも、決して遅くはありません。

さらに「住宅ローン控除」の存在も見逃せません。借入残高の0.7%(最大)が所得税・住民税から控除される制度は、実質的に金利負担を軽減する効果があります。低金利で借りている場合、控除により実質的にはマイナス金利となることもあり、この期間中の繰り上げ返済は経済合理性に欠けます。」

「借金は早く返したい」が家計を苦しめるケースとは?

---多くの方が「住宅ローンは早く返済し終えるのが正解」と考えがちですが、その考え方がかえって家計を圧迫したり、機会損失を招いたりする具体的なケースについて教えていただけますでしょうか?

柴田充輝さん:

「借金は早く返してしまいたい」という気持ちはよくわかります。特に住宅ローンは長期的な借入になるため、完済できたときの精神的な安心感は大きいでしょう。

しかし、低金利の環境下では、この考え方が逆に家計を苦しめることがあります。

よくあるケースが、想定以上に子どもの教育資金が発生するケースです。たとえば、繰り上げ返済をしたあとに子どもの教育資金が発生し、教育ローン(金利3.5%)を借りることになったらどうでしょうか。住宅ローンの返済額を抑えられても、教育ローンでそれ以上に金利負担が発生するため、トータルで考えるとマイナスです。

また、十分な手元資金を残さないまま、無理に繰り上げ返済をしてしまうケースもあります。「定年までに完済したい」という強い思いから、毎月の返済額を増やし、ボーナスも全額繰り上げ返済に充ててしまうと、十分な手元資金を残せない可能性があります。

もしボーナスのカットや親の介護費用の発生のような不測の事態が発生すると、生活費を切り詰めざるを得ません。その結果、生活の質が著しく失われてしまったり、場合によっては高金利の借金で資金を用意する必要が出てきます。つまり、過度な繰り上げ返済は、深刻な家計危機へつながりかねません。

「イールドギャップ」の考え方も重要です。イールドギャップとは、投資利回りと借入金利との差を指す指標です。簡単に言うと、投資で得られる収益の割合からローンの利息分を引いたもので、この差が大きいほど利益が出られます。

例えば、NISAで年利5%程度のリターンが期待できる場合、金利0.6%の住宅ローンを繰り上げ返済するより、投資に回した方が経済的には有利です。投資には不確実性があるため、必ず「繰り上げ返済よりも投資のほうが有利」とは限りません。しかし、繰り上げ返済の妥当性を考えるうえで大切な視点の一つとして押さえておきましょう。

自分に合った繰り上げ返済計画は数字でしっかり確認しよう

---住宅ローンの返済方法で迷う方が、ご自身の状況を整理するために、明日からすぐに実践できる「最初の一歩」となる具体的な行動を一つアドバイスいただけますでしょうか?

柴田充輝さん:

「あなたに適した繰り上げ返済の計画を考えるうえで、まず行うべきは現状の把握です。「住宅ローン返済シミュレーション表」「ライフプラン表」の作成を通じて、現在の返済状況や将来のライフイベントを把握しましょう。

もし近い将来にまとまった金額の支出が発生する見込みがあれば、手元資金に余裕を持たせておいたほうが安心です。

住宅ローンの返済シミュレーションを考える際には、「現在の返済プラン」「100万円を繰り上げ返済した場合」「100万円を運用した場合」のように、複数のパターンをシミュレーションします。それぞれについて「総支払利息」「手元資金の推移」「10年後の資産状況」を計算してみれば、最も有利な手段が判断できるはずです。

例えば、年利2%で運用できれば10年後には約122万円になります。一方、繰り上げ返済による利息軽減効果が10万円だとすれば、運用した方が12万円もお得ということが判断できるはずです。

このように、お金にまつわる疑問や不安を解消するためには、数字に基づいた客観的な判断が欠かせません。漠然とした不安や感情で判断すると、結果的に損をしてしまう可能性が高いため、注意しましょう。

また、これらの表を作る過程で現在の家計の余裕度や将来必要となる資金、リスク許容度なども自然と整理できます。住宅ローンの返済戦略だけでなく、将来にわたるマネープランを考えるうえで、数字に基づく分析と判断は非常に重要です。」

あなたに合った繰り上げ返済のタイミングがわかる!判断チェックリスト

住宅ローンの繰り上げ返済は、「金利の低さ」「家計の安全性」「人生の柔軟性」という3つの視点から総合的に判断すべきです。

低金利の環境下では、繰り上げ返済による節約効果が少なく、手元資金を十分に確保しておくことが家計の安定につながります。特に子どもの教育費や突然の出費に備えるため、生活費の6ヶ月分以上の貯金を目安にするのが安心です。

また、住宅ローン控除の活用や、将来のライフイベントを踏まえた返済計画の見直しも重要です。無理な繰り上げ返済は家計を圧迫し、かえって生活の質を下げる可能性があります。投資との比較など、数字を使ったシミュレーションで自分に合った方法を見つけ、落ち着いて判断することが大切です。


監修者:柴田 充輝
厚生労働省や保険業界・不動産業界での勤務を通じて、社会保険や保険、不動産投資の実務を担当。FP1級と社会保険労務士資格を活かして、多くの家庭の家計見直しや資産運用に関するアドバイスを行っている。金融メディアを中心に、これまで1200記事以上の執筆実績あり。保有資格は1級ファイナンシャル・プランニング技能士(FP1級)、社会保険労務士、行政書士、宅地建物取引主任士など。