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「24時間体制」「月10万円の費用」“老々介護”の過酷な現実に「悲劇でしかない」→高齢夫婦が追い詰められるワケ【プロが解説】

  • 2025.11.19
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

高齢の夫婦などが互いに介護し合う「老老介護」の現場が、深刻な問題を抱えています。介護する側の身体的・精神的なストレスや経済的な負担が限界に達し、悲しい事件につながってしまうことがあるのです。

最近も、介護疲れにより高齢の夫を妻が殺害した事件が報じられ、SNSでは「悲劇でしかない」「やりきれない」と悲痛の声が上がりました。この記事では、介護のプロの見解をもとに老老介護が抱える問題をわかりやすく解説し、悲劇を防ぐために私たちが知っておくべきことをお伝えします。

老老介護が抱える精神的・身体的な負担と経済的な問題

今回は、介護支援専門員の資格を持ち、介護老人保健施設にて理学療法士兼介護支援専門員として勤務しているeruruさんに話を伺いました。

老老介護による悲しい事件の理由は多岐にわたります。eruruさんによると、身体的・精神的ストレスと経済的な負担が大きな理由ではないかと考えられるそうです。

介護は、朝起きてから夜寝るまで、さらには寝ている間も続く24時間体制の仕事です。着替えの手助け、食事の用意、排泄の介助、お風呂の手伝いなど、細かく多くのことを行わなければなりません。認知症がある場合は、日中や夜間の見守りが必要ですし、飲み込みが悪い人には食事を細かく刻むなど工夫も必要です。

介護される人が休んでいる間も、介護する人は休むことができませんし、特に老老介護では、介護する側も高齢であるため、身体的にも精神的にも大きな負担がかかり、疲れがたまりやすくなってしまうそう。

また、経済的な負担も軽視できないそうです。介護施設に入るには毎月10万円以上の費用がかかることもあり、年金で生活している高齢者にとって、施設の費用と自分の生活費を賄うのは簡単ではありません。

結果として、自宅で介護を続ける選択をしてしまいますが、自宅での介護サービスも利用できる範囲が限られていたり、利用料が高額になったりするため、経済的に負担が重くなることも。介護の必要度によっては、安価な特別養護老人ホームにも利用制限があり、やむなく自宅介護を続けるケースが多いのです。

こうした身体的・精神的ストレスと経済的負担が重なり、悲劇が生まれてしまう可能性があるそうです。

介護を家族だけで頑張ることの危険性と外部サービスの活用の重要性

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出典:photoAC(※画像はイメージです)

eruruさんによると、介護を家族だけで頑張ることには限界があるとのこと。

先述の通り、介護は24時間続くため、介護者は寝ている間も心から休めません。音がしたらすぐに様子を見に行かなければならず、いつも介護への不安を抱えています。

「長年世話になったから、介護するのが私の役目だ」と話す人も多くいます。この気持ちはとても尊い一方で、自分を追い込んでしまう危険も。「あれだけ良くしてもらったのに、介護が必要になった途端、他人にお願いするのは間違っている」という考えは、介護者の負担を増やし、疲れやストレスから悲劇を招くことにもつながります。

「介護は、外部のサービスを上手に利用して行うことが大切」とeruruさんは訴えます。毎日使う必要はなく、必要な時に必要なサービスだけを利用することで負担を軽くできます。夕食の準備が面倒な時、外食や惣菜を利用することがありますが、介護も同じ。介護食の宅配サービスや日中のデイサービスなどを活用して「楽」をすることが大切だそうです。デイサービスを利用すれば、介護される側も入浴やリハビリができ、介護する側もゆっくり休息が取れます。

ただし、介護される本人が「外部サービスを使いたくない」と感じることもあります。そんな時には、しっかり話し合うことが必要です。介護される人は体の不自由さからイライラしたり、介護する側は疲れや不安になることも。感情的に「サービスを使いたくない」と言うと、介護する側は辛くなり、介護そのものがストレスの原因になってしまいます。会話を大切にし、互いの気持ちを理解し合うことが、悲劇を防ぐ鍵なのです。

話し合いと地域コミュニティのつながりが悲劇を防ぐ第一歩

老老介護の悲劇を防ぐために、明日からでもできる「最初の一歩」はどんなものがあるのでしょうか。

eruruさんによると、「家族間での話し合い」が大切だそうです。いつまでも元気でいられるのが理想ですが、いずれ介護が必要になる時が訪れます。その時にどうしてほしいか、希望や意向をお互いに伝え合っておくことはとても重要です。

たとえば、「最後は家で過ごしたい」という言葉を聞くと、自宅でずっと介護を続けることを望んでいるように思えます。しかし、実際には亡くなる直前の「看取り」の期間だけは家で過ごしたいという意味であることも。きちんと話し合わずに「最後まで自宅で介護しなければならない」と誤解すると、過度な負担につながります。認知症などで話ができなくなる前に、元気なうちから介護や老後について話し合うことが大切です。

さらに、夫婦だけでなく地域や同年代のコミュニティに参加することも重要に。地域のつながりがあれば、介護が必要になった時に助け合いや情報交換ができ、外部サービスを使うことへの抵抗感も減ります。孤立を防ぎ、夫婦間の負担を軽減し、悲劇的な事件のリスクを下げることにつながるのです。

老老介護で限界を迎える前に。今すぐできる「負担を軽くする」ヒント

老老介護が抱える大きな問題は、身体的・精神的なストレスと経済的な負担です。介護は24時間続き、介護者の疲れや不安は想像以上に深刻です。経済的な理由から自宅での介護を選ぶ方も多く、負担が重くなりがちです。

だからこそ、外部サービスを上手に利用し、介護を「楽」にすることが必要です。

そして、何より大切なのは、介護をする側とされる側が日頃から話し合い、希望や気持ちを共有することです。地域とのつながりも活用し、孤立を避けることで、悲劇を防ぐことができます。老老介護の現場で起こりうる悲しい事件を防ぐために、今からできることを一緒に考えていきましょう。


監修者:eruru
4年制大学理学療法学科を卒業後、整形外科クリニックにて3年間勤務
整形外科クリニックにて整形外科疾患や脳血管疾患を含む2000人以上の症例を担当
その後、介護老人保健施設へ転職
数年働く中で、利用者の身体的な改善だけでなく、家族の力にもなりたいと考え、介護支援専門員の資格を取得
現在は介護老人保健施設にて理学療法士兼介護支援専門員として勤務
今後ますます高齢者が増えていく中で、理学療法士として高齢者の健康寿命の増加と安全な在宅での生活を目指し、介護支援専門員として家族が安心して介護できる環境づくりや適切な介護保険サービスの提供に励んでいます