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35年前、ドラマEDから広がった“静かだけどロックな”裏切りソング ハードロックの印象を塗り替えた“愛の曲”

  • 2025.10.12

「35年前、あなたはどんなバラードに耳を傾けていただろう?」

1990年。高層ビルの窓に映る夜景、煌めくネオン、華やかなファッション。しかしその裏では、経済の揺らぎや人々の不安がじわじわと広がり始めていた。雑誌の表紙には夢を追いかけるキャッチコピーが躍っていたが、心の奥に響くのはどこか静けさをまとった旋律だった。そんな時代に、B’zは意外な一曲を届けた。

B’z『愛しい人よGood Night…』(作詞:稲葉浩志・作曲:松本孝弘)――1990年10月24日発売

7作目のシングルにして、アルバム『RISKY』からの先行シングル。そして、B’zのシングル史上初めてバラードを表題に据えた作品だった。

表舞台に出た“バラードのB’z”

『太陽のKomachi Angel』や『Easy Come, Easy Go!』といった、勢いと華やかさを兼ね備えた楽曲で注目を集めていた彼ら。そこに突如現れた『愛しい人よGood Night…』は、「B’z=ハードでポップなロック」という印象を心地よく裏切った

稲葉浩志の声は、力強さを内に秘めながらも穏やかに響く。松本孝弘のギターは、ピアノの余白をすくい取るように旋律を彩り、徐々に熱を帯びていく。ボーカルとギターが交わりながら、聴き手の心の奥へ静かに染み込んでいった。

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オリコン40周年記念表彰式「WE LOVE MUSIC AWARD」に登場したB'zの稲葉浩志 (C)SANKEI

ドラマの余韻を支えた旋律

この曲は、石原プロ制作のテレビ朝日系ドラマ『代表取締役刑事』の初代エンディングテーマにも起用された。刑事ドラマ特有の緊張感に包まれた物語の最後に流れるこのバラードは、画面の余白と重なり、視聴者に深い余韻を残した。

アップテンポなギターロックをメインにしていると思われていたB’zが、シングルでピアノを主体にしたバラードを届けてきた――その意外性こそが大きな魅力だった。やがて『ALONE』などへとつながる“B’zのバラードシングル”の芽吹きが、ここに確かに刻まれていた。

発売と同時に注目を集め、ランキングでは初登場1位を記録。最終的に35万枚を超えるセールスを達成し、キャリア初期だった彼らが確実にファン層を拡大していることを証明した。ロックバラードでヒットを掴んだ事実は、B’zの音楽的ポテンシャルの広さを鮮やかに示した。

ファンの記憶に残り続ける理由

ライブにおいても、この曲はしばしば特別な位置を与えられてきた。華やかなステージの中でふと披露されると、空気が変わり、観客のざわめきがすっと止まる。そんな経験をしたファンも少なくないだろう。熱狂の中に一瞬の静寂を生む――それが『愛しい人よGood Night…』の力だった。

さらに、このシングルを機に「バラードでも勝負できる」という自信を得たことは、後の数々の名バラードへとつながっていく。B’zの長いキャリアを振り返るとき、この曲は確かに“バラードの原点”として位置づけられると言っていいだろう。

静かな愛の余韻

1990年の秋。街を歩けば、まだバブルの残り香が漂いながらも、時代の空気は次第に落ち着きを取り戻しつつあった。そんな中で響いた『愛しい人よGood Night…』は、聴く人に「少し立ち止まってもいい」と伝えているかのようだった。

華やかさではなく静けさで心を掴む――その姿勢こそが、この曲を時代を超えて愛されるバラードにした理由だろう。

35年を経た今もなお、夜の帳が下りる瞬間にふと聴きたくなる一曲。それが、このB’zのバラードだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。