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20年前、映画発→世に広まった“静かなのに強い”異質ソング 言葉選びが鮮烈な“透明のバラード”

  • 2025.10.10

「20年前の秋、あなたはどんな景色を見ていただろう?」

木々が色づき始め、少し肌寒い風が街を吹き抜ける。夜空に虫の声が響く中で、映画館から静かな旋律が流れ出す。そんな季節に、一青窈の歌声は人々の胸に深く染み込んでいった。

一青窈『かざぐるま』(作詞:一青窈・作曲:武部聡志)――2005年9月21日発売

静けさに宿る強さ

『かざぐるま』は、一青窈にとって7枚目のシングル。映画『蟬しぐれ』のイメージソングとして世に送り出された。時代劇映画の世界観に寄り添うように、楽曲には余白の多いおだやかさが漂う。そして包み込むような美しいサウンドが、強い情感を呼び起こす

作曲・編曲を手がけたのは、日本のポップス史に欠かせないアレンジャーのひとり、武部聡志。彼が紡ぐ透明感のあるピアノやストリングスは、映画の映像と同じくらいに深い余韻を残した。そして、そのサウンドの隙間に溶け込むように響く一青窈の声。彼女特有の息づかいを感じさせる歌唱は、言葉そのものよりも“祈り”のような存在感を放っている。

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一青窈-2005年撮影 (C)SANKEI

武部サウンドとの邂逅

一青窈は、デビュー作『もらい泣き』(作詞:一青窈・作曲:マシコタツロウ、武部聡志、溝渕大智)から武部聡志のプロデュースを受け、シンガーとして鮮烈な印象を残した。あの独特の言葉選びや繊細な情感表現は、彼女の個性であると同時に、武部が丁寧に引き出したサウンドの力に支えられていた。以来、彼女はシーンの中で常に注目を集め、シングルごとに異なる側面を見せながら存在感を広げていく。

時代に流れ込んだ“余白”

2005年の音楽シーンといえば、華やかなダンスチューンやキャッチーなラブソングがチャートを席巻していた時代。そんな中、『かざぐるま』のような静けさを基調とした作品は異彩を放っていた。だがその異質さこそが、多くのリスナーの心をとらえた理由だった。

映像と音楽が重なり合うとき、そこには時代の喧噪とは別の時間が流れはじめる。『蟬しぐれ』という映画が描いた人間模様と、『かざぐるま』が持つ響きは、観る者・聴く者の記憶にしっかりと重なり合った

余韻を残す歌声

『かざぐるま』における一青窈の歌声は、聴き手を圧倒するのではなく、そっと寄り添うように広がっていく。低音域に漂う陰影、囁くような高音の透明感。聴いた後に残るのは強烈なフレーズではなく、深く静かな余韻だ。

これは単なるイメージソングではなく、映画の情景を外に持ち出し、日常の風景にまで広げていく力を持っていた。まるで“風車”が風を受けて静かに回るように、楽曲は時を超えて今も人々の記憶を回し続けている。

20年経っても揺るがないもの

時代が変わり、音楽の聴き方がCDから配信やサブスクへ移り変わった今でも、『かざぐるま』の持つ美しさは揺るがない。映画音楽という枠を越え、人生のどこかでふと立ち止まったときに寄り添ってくれる楽曲として、静かに息づいている。

あの秋の風景とともに思い出される、一青窈の柔らかな声。20年の時を経てもなお、聴く者の心に静かな祈りを響かせる曲。それが『かざぐるま』なのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。