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高齢者「まだ運転できる」“免許の返納”を嫌がる親…→事故を起こしたら、賠償責任は誰が負う?【法律のプロが解説】

  • 2025.10.1

 

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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

高齢ドライバーによる事故が社会問題となり、国や自治体は「運転免許の自主返納」を呼びかけています。しかし、本人が「まだ運転できる」と返納を拒む場合、家族が強制的に免許を取り上げることはできるのでしょうか?
また、判断能力が低下している場合には、免許の問題に加えて財産管理や生活面のリスクも出てきます。今回は弁護士の解説をもとに、家族が知っておきたい法的な視点を整理しました。

家族に強制する権限はある?

結論から言えば、家族が免許返納を法的に強制することはできません

返納はあくまで本人の自主的判断によるもので、家族が手続を代行したり強制的に行う仕組みは存在しません。

したがって、家族にできるのは「説得」と「環境づくり」。具体的な出来事や事故のリスクを丁寧に説明し、本人が納得感を持って返納に踏み切れるよう促すことが重要です。

判断能力の低下と免許更新の関係

75歳以上の運転者は免許更新時に認知機能検査が必須です。

  • 「認知症のおそれあり」と判定された場合は医師の診断が必要。診断で認知症と判断されれば、免許は取り消し・停止となり更新できません。
  • 一方で「おそれなし」と判定された場合は、講習を受けることで更新可能です。

75歳未満でも、認知機能の状態によっては更新が制限される場合があります。
つまり、免許更新の可否は本人の判断能力次第。制度的にも能力低下があれば運転は継続できない仕組みになっています。

事故を起こしたら家族も責任を負う?

原則として、事故の責任は運転していた本人が負います。ただし、次のような例外には注意が必要です。

  • 本人が「責任無能力者」と判断され、家族が監督義務者とみなされた場合
  • 車の所有者が家族で、運行に関わる責任(運行供用者責任)が問われる場合

つまり、場合によっては家族に賠償責任が及ぶリスクもあるのです。

成年後見制度と任意後見制度の活用

判断能力の低下が見られ、財産管理や生活に不安がある場合には成年後見制度を利用し、家庭裁判所に後見人を選任してもらう方法があります。
一方で、現時点で能力に問題はなくても将来に備えたい場合は、任意後見制度を活用し、本人が信頼できる人に支援を依頼する契約を結んでおくのがおすすめです。

安全と尊厳を両立させるために

強制的に免許を取り上げることはできませんが、家族としては次の工夫が役立ちます。

  • 具体的なリスクを共有:「事故を起こしたら法的にどうなるか」を数字や事例で説明する
  • 代替手段を用意:買い物や通院の移動手段を一緒に考える
  • 本人の希望を尊重:運転をやめた後も生活の目的が満たされるように配慮する

高齢ドライバー問題は安全と尊厳のバランスをどう取るかが鍵です。本人の思いを尊重しつつ、法制度や支援策をうまく活用することが家族の役割だといえるでしょう。


監修者名:ベリーベスト法律事務所 弁護士 齊田貴士

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神戸大学法科大学院卒業。 弁護士登録後、ベリーベスト法律事務所に入所。 離婚事件や労働事件等の一般民事から刑事事件、M&Aを含めた企業法務(中小企業法務含む。)、 税務事件など幅広い分野を扱う。その分かりやすく丁寧な解説からメディア出演多数。