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若手社員で広がる“残業キャンセル”…中堅世代からは賛否「今の若者が正解」「もっと努力すべき」→“世代間ギャップ”どう対処する?

  • 2025.9.16
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「すみません、定時なので失礼します」。部下や後輩からのそんな一言に、戸惑った経験はありませんか?

若手社員の間で広がる「残業はしない」という新しい当たり前。頭ごなしに否定すれば「パワハラ」と言われかねない一方、業務が滞ってしまう現実もあるかもしれません。

このデリケートな問題に、企業や管理職はどう向き合うべきか。社会保険労務士の専門家に、法的な視点とマネジメントの観点から、具体的な対応策を伺いました。

そもそも残業を拒否・取り消すことは、労働法上どのように位置づけられるのでしょうか? 

今回は、あゆ実社労士事務所の加藤あゆみさんに詳しくお話を伺いました。

法律上、社員には法定労働時間を超えて働く義務はありません。会社が残業を依頼できるのは、労使で『36(サブロク)協定』を結んでおり、かつ業務上やむを得ない必要がある場合に限られます。

一方で、会社が正しくルールに基づいて依頼しているのに、社員が一方的に断るのは難しいとされています。ただし、体調不良や家庭の事情といった正当な理由があれば問題ありません。

むしろ問題なのは、『なんとなく帰りにくい雰囲気』や『皆が残っているから自分も』といった曖昧な残業です。本来強制できるものではなく、こうした“なんとなく残業”が常態化している職場こそ改善すべきです。若手が『今日は定時で帰ります』と伝えるのはわがままではなく、むしろ職場環境を見直すサインと受け止めるべきでしょう。

残業キャンセルが増えることで、企業や管理職にはどんなリスクが生じますか?

最近の若手社員は仕事とプライベートを同じくらい大切にする傾向があります。これは前向きな変化ですが、中堅・ベテラン世代との間で価値観のギャップが生じやすいのも事実です。

企業の実務面では、急に残業ができないと言われることで納期に遅れたり、顧客対応が滞ったりするリスクがあります。そのため管理職の中には『責任感が足りないのでは』と懸念する声もあるでしょう。

ただし重要なのは残業時間そのものではありません。『最後までやり切る経験』や『夢中になっていたら気づけば遅くなっていた』といった粘り強さを育むことです。自由を主張する前に義務を果たす姿勢があれば、世代を問わず健全な信頼関係を築けるはずです。

この価値観の変化に、企業や上司はどう対応すべきでしょうか?

まずは『残業ありき』の仕組みを見直すことが必要です。

残業削減の取り組みを評価に反映する、業務量を正しく見積もって適切な人員を配置する、リモートワークやフレックス制度を活用するといった制度的な工夫が挙げられます。

一方で、制度だけでは十分ではありません。現場のコミュニケーションが欠かせないのです。

上司が業務を依頼する際には、『なぜこの期限なのか』『なぜあなたに頼むのか』をきちんと説明すること。若手が残業を断った場合でも、『今日はどこまで進んでいる?』『誰に引き継げそう?』と建設的に話し合うことで、業務の継続と安心感を両立できます。

理想は、社員が『自分の役割は果たす』という意識を持ち、その上で『権利を安心して主張できる』環境を会社が整えることです。上司が残業を押し付けるのではなく、社員一人ひとりが自分の働き方を考えられる職場文化が、長期的な組織づくりにつながると考えます。

まとめ

“残業キャンセル”は、単なるわがままではなく、職場の課題を映し出す鏡とも言えます。

世代間の価値観の違いを否定するのではなく、制度と対話の両輪で受け止めることが、これからの組織運営に求められる姿勢ではないでしょうか。


監修者:あゆ実社労士事務所

人材育成とキャリア支援の分野で約10年の経験を持ち、社会保険労務士・国家資格キャリアコンサルタントとしても活動。
累計100名以上のキャリア面談を実施し、1on1面談制度の設計やキャリア面談シート作成などを通じて、組織の人材定着と成長を支援してきた。
新入社員向け「ビジネスマナー」「マインドセット」「ロジカルシンキング」研修やキャリア研修では、企画・コンテンツ作成から講師まで一貫して担当。
人間関係構築や部下育成、効果的な伝え方に関する豊富な実務経験を活かし、読者や受講者が一歩踏み出すきっかけとなる関わりを大切にしている。