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「無責任すぎる」部活の遠征で生徒を置き去り…教員の対応に「異常」「指導者失格」と批判→これは指導として許される?

  • 2025.9.11
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

長野県・佐久長聖高校の女子バスケットボール部で、顧問が遠征先の新潟市で部員を置き去りにした問題が波紋を広げています。顧問は「あいさつができていない」という理由で宿泊先から相手校まで7キロの道のりを歩かせ、さらに帰路では1人をバスに乗せず新幹線で帰宅させたことも明らかになりました。
学校は顧問を厳重注意処分としましたが、「指導の範囲を超えている」「法的に問題ではないのか」「虐待なのでは」という声があがっています。

そこで今回は、部活動の遠征で生徒を置き去りにする行為に、どのような法的リスクがあるのか、弁護士さんに詳しくお話を伺いました。

置き去りは「指導」では済まされない?考えられる法的責任

今回は、NTS総合弁護士法人札幌事務所の寺林智栄弁護士に詳しくお話を伺いました。

寺林弁護士によると、生徒を遠征先で置き去りにする行為は「不適切な指導」という範囲を超え、法的に責任を問われる可能性があるとのことです。主に、次の3つのリスクが挙げられると解説されています。

  • 民事上の損害賠償責任
    教育現場の指導者には、生徒の安全を守る「安全配慮義務」があります。置き去りによって怪我や事故が起きれば、安全配慮義務違反として保護者から学校や顧問に損害賠償請求が可能です。
  • 刑事責任
    生徒を危険な状況に放置した場合、「保護責任者遺棄罪」(刑法218条)が成立する可能性があります。故意に帰宅手段を奪った場合は特に問題です。
  • 行政責任
    公立校では教育委員会、私立校では学校法人の監督責任が問われ、調査や懲戒処分につながります。

さらに、学齢が低いほど責任は重くなります。
小学生の場合は自力での行動が難しいためリスクが高く、刑事責任に直結する可能性も。中学生でも依然として強い監督義務があり、高校生でも「自立度が高いから免責」とはならず、学校の責任は残るといいます。

保護者や生徒が損害賠償を求める場合に請求できるもの

もし生徒や保護者が法的措置を取るとすれば、どのような請求ができるのでしょうか。寺林弁護士は、主に以下の内容が対象になると解説されています。

  • 実際にかかった費用
    怪我の治療費、自力帰宅の交通費・宿泊費など。
  • 精神的苦痛に対する慰謝料
    置き去りによる恐怖や不安。特に年齢が低いほど、慰謝料は大きく評価されやすいといいます。
  • 付随する損害
    保護者が対応のために休業した損害、生徒が学業や進学活動に支障を受けた場合の不利益など。

請求の相手は顧問個人だけでなく、学校法人(私立)や自治体(公立)も対象になります。実務的には資力のある学校や自治体への請求が中心ですが、行為が悪質な場合は顧問個人にも責任が及ぶ可能性があるそうです。

再発防止のために求められる体制整備とは?

最後に、こうした問題を防ぐために学校や指導者が取るべき体制についても伺いました。

  • 指導者の適性チェックと監督体制の強化
    過去の問題行動や適性を確認し、リスクのある人物を遠征引率に任せない。
  • 懲戒制度・ガイドラインの整備
    置き去りは「教育的指導」とは言えず懲戒事由となるため、調査や処分の基準を明文化する。
  • 相談・通報窓口の設置
    生徒や保護者が声を上げられる内部窓口や第三者機関への相談ルートを整える。
  • 危機管理マニュアルの作成
    置き去りが発覚した際に警察・保護者への報告や、弁護士との連携を速やかに行える仕組みを持つ。
  • 保護者への説明責任
    謝罪や再発防止策の公表を行い、信頼回復に努めることも欠かせません。

故意で生徒らを置き去りにした場合、学校全体の信頼失墜は甚大です。

学校には、被害生徒・保護者への謝罪だけでなく、再発防止策を公表する説明責任があります。

まとめ

生徒を遠征先で置き去りにする行為は、教育的指導として正当化できるものではなく、民事・刑事・行政すべての観点から法的責任を問われ得ます。

「あり得ない」という世間の声の背景には、子どもたちの安全を守るべき大人が義務を果たさなかったことへの強い不信感があります。再発防止に向けて、学校は具体的な体制整備と責任ある説明を求められています。


記事監修:NTS総合弁護士法人札幌事務所 寺林智栄 弁護士

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2007年、弁護士登録(札幌弁護士会所属)。 2013年から2017年まで東京家庭裁判所家事調停官を務める。 離婚・相続などの家事事件、労働問題、一般民事事件、企業法務など、幅広い分野を担当している。