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「移民対策としか思えない」「絶対に必要」“緊急避妊薬”の市販化に賛否…→医師「魔法の薬ではない」プロが指摘するリスクとは?

  • 2025.9.22
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出典元:photoAC(※画像はイメージです)

「移民対策としか思えない」「絶対に必要」など、さまざまな意見が飛び交う“緊急避妊薬”の市販化。社会的な論争にまで発展する一方で、医療の現場では、この動きをどのように捉えているのでしょうか。今回は、医師の解説をもとに、緊急避妊薬の市販化がもたらす女性の健康への影響と、安全な利用のために本当に知っておくべきことについて、深く掘り下げていきます。

飲みたい時にすぐ!アクセス改善がもたらす最大のメリット

緊急避妊薬の市販化における最大の利点は、「必要なときにすぐ手に入る」ようになることです。

この薬は、性行為の後、服用が早ければ早いほど妊娠を防ぐ効果が高まります。市販化が実現すれば、これまでのように病院の診療時間に合わせたり、予約を取ったりする必要がなくなります。

夜間や休日、医療機関が遠い地域に住む人、あるいはためらいを感じて受診しづらかった人でも、薬局で速やかに入手できるようになり、服用までの時間を大幅に短縮できるのです。

海外の事例を見ても、薬局で直接購入できるようになることで、入手へのハードルが下がり、服用の遅れが減少することが示されています。日本でも、2025年8月29日に厚生労働省の部会で市販化の方針が了承され、研修を受けた薬剤師が対面で販売するといった具体的な条件が示されました。

この仕組みは、利用者が安心して次の一歩を踏み出すためのサポート体制とも言えます。薬剤師が飲み方や副作用について丁寧に説明し、今後の避妊方法や性感染症予防に関する情報提供を行うことで、単なる薬の販売にとどまらない、包括的な健康支援へとつながることが期待されています。

「魔法の薬」ではない。知っておくべきリスクと正しい使い方

一方で、市販化によって手軽に入手できるようになるからこそ、知っておくべきリスクや注意点もあります。

最も重要なのは、緊急避妊薬は「日常的な避妊」の代わりにはならないということです。あくまで予期せぬ事態が起きた際の「緊急的」な手段であり、コンドームや低用量ピルのような計画的な避妊法とは異なります。

また、性感染症(STI)を防ぐ効果は一切ありません。服用後は、一時的な吐き気や頭痛、だるさといった副作用が出ることがあります。もし服用から3時間以内に吐いてしまった場合は、再度の服用が必要になる可能性もあるため注意が必要です。

また、服用後も通常の生理が3週間以上遅れる、強い下腹部痛があるといった場合には、妊娠の可能性を考え、検査や医療機関の受診を検討しましょう。てんかんや結核の薬など、一部の薬との飲み合わせで効果が弱まる可能性も指摘されており、持病がある方や授乳中の方など、個別の状況については薬剤師や医師に気兼ねなく相談することが大切です。

議論の本質は「自己決定権」。人口問題とは切り離すべき

市販化の議論が「少子化対策」や「移民政策」といった文脈で語られることがありますが、医療の立場から見た本質は、まったく別のところにあります。

最も重要な論点は、「望まない妊娠を減らし、すべての人が自分の身体と人生を自分で決める(リプロダクティブ・ヘルス/ライツ)ことを支える」という点です。

これは、人口を増やす・減らすといった政策とは切り離して考えるべき、個人の尊厳に関わる医療的な課題です。市販化は、時間的・地理的・心理的な障壁を取り払い、必要な医療にアクセスしやすくするための具体的な手段です。

その実現にあたっては、誤解を生まないための正確な情報提供が欠かせません。「緊急避妊薬は中絶薬ではないこと」「性感染症は防げないこと」などを分かりやすく伝える工夫が求められます。

さらに、薬局が単に薬を渡す場所ではなく、性暴力の被害に遭った際の相談窓口や、継続的な婦人科ケアへとつなぐ「ハブ」としての役割を担うことも、利用者の安心と安全を守る上で非常に重要となります。

誰もが安心して選択できる社会へ

緊急避妊薬の市販化は、望まない妊娠という身体的・精神的な負担から女性を守り、自らの健康と人生を主体的に選択する権利を保障するための、重要な一歩と言えます。

そのメリットを最大限に活かし、リスクを最小限に抑えるためには、社会全体で正しい知識を共有することが不可欠です。そして、プライバシーが守られた環境で、専門家である薬剤師から適切な説明を受け、必要な支援情報にもアクセスできる。

そんな体制を整えることで、誰もが安心してこの選択肢を手に取れる社会の実現が期待されます。    


監修者:中澤 佑介
金沢医科大学医学部医学科卒業。「患者さんに近い立場で専門的医療を提供したい」という思いで2021年、なかざわ腎泌尿器科クリニックを開設。2024年9月、JR金沢駅前に金沢駅前内科・糖尿病クリニックを開設。