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20年前、流行にあえて逆行した“知らないのに懐かしい”駅名ソング 自身の学生時代を投影した“シンプルなピアノバラード”

  • 2025.10.12

「20年前、あなたはどんな景色を見ていた?」

2005年、CDショップの棚には色とりどりのシングルが並んでいた。季節は寒さを増し、街角にはバレンタインを意識したディスプレイが輝いていた頃。そんな時代の空気に寄り添うように登場したのが、この1曲だった。

aiko『三国駅』(作詞・作曲:AIKO)――2005年2月16日発売

大阪を走る阪急電鉄宝塚本線の「三国駅」を舞台にしたピアノバラードは、日常と切なさを重ねるように聴き手の胸に広がっていった。

自身の足跡から生まれた歌

「三国駅」という地名は、aikoにとって特別な響きを持っている。彼女が通った大阪音楽短期大学の最寄りである庄内駅からひとつ隣にある駅。学生時代に通り過ぎていた風景が、後に楽曲として命を吹き込まれることになった。

アルバム『夢の中のまっすぐな道』へとつながる先行曲。華やかなポップソングが目立つ時期にあえてシンプルなピアノバラードを打ち出した姿勢は、シンガーソングライターとしての確固たる意志を感じさせる。

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イベントに登場したaiko-2004年撮影 (C)SANKEI

心をとらえる旋律の余韻

この曲の魅力は、まず何よりもピアノの旋律が生む透明感にある。静かに紡がれていく音色が、駅前に漂う静けさや、季節の寒さまでも連想させる。そこにaiko特有の柔らかな歌声が重なり、聴き手は自然と情景の中に引き込まれてしまう。

歌詞に描かれる場所や感情の揺らぎは具体的でありながら、同時に誰の心にも共通する“別れ”や“待ち合わせ”の記憶を呼び起こす。まるで自分自身の過去を見ているかのような感覚に包まれるのだ。

背景に刻まれたaikoの歩み

2005年当時のaikoは、すでに国民的な支持を獲得していた。しかし『三国駅』のように、自らのルーツや土地に結びついた楽曲を表題曲として届けたことは、彼女のキャリアにおいても特別な意味を持っている。

アルバム『夢の中のまっすぐな道』の流れの中でも、この楽曲は静かなアクセントとして存在感を放った。煌びやかなヒット曲とは異なり、聴き返すたびに心の奥に沈んだ感情を優しくすくい上げるような力を持っている

切なさを残す駅名の響き

「三国駅」というタイトルは、一見すると駅名そのものに過ぎない。しかし楽曲が広まるにつれ、それは単なる場所を超えて、“心の風景”を象徴する言葉へと変わっていった。

大阪に縁のないリスナーであっても、この曲を聴けば自分自身の「通り過ぎた駅」や「立ち止まった場所」を思い浮かべることができる。ごくありふれた風景の中に、誰もが抱く切なさを重ね合わせたからこそ、この曲は長く愛され続けているのだろう。

20年後に響く余韻

あれから20年。三国駅は今も変わらず電車に寄り添い、日々の暮らしを支えている。その場所を題材にしたaikoの歌は、時代を越えて心に残る“生活の中の音楽”として、今なお多くの人の耳に届き続けている。

街の雑踏に紛れてふと流れてきたとき、あるいは夜の帰り道にイヤホンから響いたとき――『三国駅』は、過去と現在をつなぐ“個人の記憶”をやさしく照らしてくれるのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。