1. トップ
  2. 35年前、日本中が熱狂した“仕掛けだらけのダンスナンバー” 新風を巻き起こした“挑戦の1曲”

35年前、日本中が熱狂した“仕掛けだらけのダンスナンバー” 新風を巻き起こした“挑戦の1曲”

  • 2025.8.26

「35年前の春、どんな音楽が街を支配していたか覚えてる?」

1990年の街は、まだバブルの残り香に包まれていた。夜の繁華街はまぶしいほどに輝き、テレビは華やかな番組で溢れ、誰もが明日に楽観的な夢を抱いていた。その一方で、どこか落ち着かない空気も忍び寄っていた時代だ。

そんな年の春に、都会を駆け抜けるような刺激的なサウンドが響き渡った。

田原俊彦『ジャングルJungle』(作詞:松井五郎・作曲:羽田一郎)——1990年3月21日発売。

フジテレビ系ドラマ『日本一のカッ飛び男』の主題歌、そしてサントリー「シードル」のCMソングという豪華なダブルタイアップで届けられたこの曲は、田原にとっても挑戦的なシングルだった。

37作目に刻まれた、田原俊彦の“次の一歩”

1980年にシングル『哀愁でいと』で歌手デビューしてから10年。アイドルからビッグスターへと存在を高めていった田原俊彦は、『抱きしめてTONIGHT』(作詞:森浩美・作曲:筒美京平)や『ごめんよ 涙』(作詞:松井五郎・作曲:都志見隆)など相変わらずのヒットを重ね、その人気を不動のものにしていた。

だが1990年に放たれた37枚目のシングル『ジャングルJungle』は、それまでの王道路線とは明らかに異なる空気をまとっていた。

作詞を手がけた松井五郎は、都会的で洗練された言葉選びに定評があり、多くのアーティストに新しい表現を与えてきた存在。そして作曲の羽田一郎は、学生時代に久保田利伸とファンクバンド「ホッテントット」を組んでいた経歴を持ち、そのブラック・ミュージックのエッセンスを楽曲に注ぎ込んだ。

その結果生まれたのは、ポップスでありながら強烈なグルーヴを宿した一曲。『ジャングルJungle』は、田原俊彦がよりダンサブルで都会的な表現へと歩み出したことを示す“挑戦の証”だった

undefined
1999年、ライブで歌う田原俊彦 (C)SANKEI

サウンドの核心は“シンセベース”

『ジャングルJungle』の最大の聴きどころは、シンセベースがドライブするエレクトロ・ファンク仕様のサウンドだ。

低音がうねるようにリズムを刻み、その上を軽やかなシンセフレーズやビートが走る。アレンジは都会的で立体的に仕上げられ、単なるアイドルポップを超えたダンスミュージックの香りをまとっていた。

サビでは「ジャングル」が「ジャンゴー」と聴こえる不思議な響きが耳に残り、さらにサビの終わりに田原が力強く叫ぶ「そうさ!」が、楽曲全体の勢いを決定づける。

聴く人を一瞬でステージの熱狂に引き込む“仕掛け”が随所に散りばめられていた。

ダンスが完成させた一曲

この曲を語る上で欠かせないのが、田原俊彦のダンスパフォーマンスだ。テレビの音楽番組で披露された『ジャングルJungle』は、シンクロした振り付けとシャープなステップで、楽曲の疾走感をさらに引き立てていた。

腰を切るような動きやキレのあるターンは、まさに田原の真骨頂。歌とダンスが一体となり、“歌って踊れるエンターテイナー”としての存在感を世間に強烈に焼き付けた。

ファンにとっては、サビ終わりの「そうさ!」と同時に繰り出される力強い表情が、今なお鮮明な記憶として残っているはずだ。

時代と共鳴した“疾走感”

『ジャングルJungle』は、ポップスとブラック・ミュージックを繋ぐような架け橋であり、アイドルソングの可能性を広げた一曲といえる。

大ヒットとまではいかなかったが、テレビや街で耳にした瞬間のインパクトは強烈で、当時を知る人の記憶には今なお鮮やかに残っている。

アイドル黄金期からJ-POP黄金期への移行を告げる、ひとつの“時代の合図”だったのかもしれない。

あの夜を思い出すと聴こえてくる“ジャンゴー”

春の街を歩くと、不意に蘇るイントロのリズム。サビの「ジャンゴー!」と聴こえるフレーズ。華やかなテレビ番組の照明や、CMの爽やかな映像とともに、当時の空気を一瞬で呼び戻してくれる。

35年前、私たちは確かに“ジャングル”の熱をまとったポップソングと出会っていた――そうさ!


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。