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35年前、日本中を駆け抜けた“疾走する恋の歌” 未来の国民的バンドを決定づけた“転機のシングル”

  • 2025.8.25

「35年前の春、どんな音楽が街を包んでいたか覚えているだろうか。」

1990年、平成が始まって1年。渋谷や原宿では若者たちが最新のファッションに身を包み、夜の高速道路にはカーステレオから流れるヒット曲がネオンの光と重なって響いていた。

そんな時代の空気を切り裂くように、B’zが放った4枚目のシングルが『BE THERE』だった。

B’z『BE THERE』(作詞:稲葉浩志・作曲:松本孝弘)——1990年5月25日発売。

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B'z (C)SANKEI

サンプリングが切り拓いた新しい幕開け

この楽曲の印象を決定づけるのは、やはりイントロだ。左右に振られるオケヒットが鳴り響き、複数のサンプリングが矢継ぎ早に差し込まれる。その音の奔流を抜けた先に、松本孝弘のアルペジオが静かに顔を出す。

わずか数十秒の展開ながら、聴く者を一気に曲の世界へ引き込んだ。単なるバンドサウンドにとどまらず、テクノロジーと人間的な熱量を掛け合わせた構成は、90年代の新しいロックの形を予感させるものだった。

B’zがB’zになった瞬間

『BE THERE』で聴ける稲葉浩志の歌声は、すでに新人の域を超えていた。伸びやかで突き抜けるハイトーン、言葉をまっすぐに届ける表現力。松本のギターが描くソリッドなリフと稲葉の声が重なった瞬間、B’zというユニットの独自性が鮮明に立ち上がる。

色とりどりの灯に包まれた街の中で揺れる不安や孤独感、そして変化の時代にあっても「君だけはそばにいて」という確かな支えを求める心。そのメッセージは、恋人に限らず仲間や大切な存在にも重ねられる、普遍的な“寄り添い”の歌といってもいいだろう。

抑揚の強いメロディラインに乗せられた言葉は、バブル期の浮かれた空気に埋もれることなく、むしろ聴き手を鼓舞し背中を押すように響いてくる。ここには、「この頃のB’zにしか出せない初期衝動」が確かに刻まれていた。

初の快挙とロングセールス

『BE THERE』は、B’zのシングルとして初めてランキング初登場でトップ10入りを果たした。まだ知名度が全国区とは言えない時期において、この記録は大きな飛躍だった。さらにセールスも伸び、最終的には30万枚以上を売り上げるヒットとなる。

特筆すべきは、その後に続く快進撃への布石になった点だ。続く6月13日には『太陽のKomachi Angel』が発売され、こちらはランキング1位を獲得する。2作が連続してチャートを賑わせたことで、B’zは一気に音楽シーンの“本格派”として位置づけられていったのである。

異例の未収録——“宙に浮いた名曲”

もうひとつ、この曲を語るうえで欠かせないのが、アルバム未収録という事実だ。

『BE THERE』はシングル表題曲でありながら、次のオリジナル・アルバム『RISKY』に収録されなかった。結果として1998年のベスト・アルバム『B’z The Best “Pleasure”』でようやくCDアルバムに収められるまで、実に約8年間もアルバム未収録曲として存在していた。

当時はサブスクも配信もない時代。アルバム中心に音楽を集めていたファンにとって、『BE THERE』を聴くにはシングルを手に入れるしかなかった。そのため、後からB’zを知ったリスナーがわざわざ過去のシングルを探しにレコード店へ通う姿も少なくなかったという。それだけ特別な輝きを放ち続けた曲だった。

さらにライブでの存在感も格別だ。イントロのオケヒットが鳴り響いた瞬間、客席全体が一斉にざわめき、身体が無意識に動き出す。1990年当時に初めて体感したリスナーにとって、その衝撃は忘れられない記憶として刻まれている。

時代を駆け抜け、今も走り続ける

『BE THERE』が生まれてから35年。街の景色は大きく変わり、音楽を聴く手段もCDから配信へと移り変わった。それでもイントロのオケヒットが鳴り響けば、あの時代のざわめきや夜風、ネオンに照らされた夜道の記憶が鮮やかに蘇る。

B’zがやがて国民的バンドへと成長していく、その軌跡の起点には、この曲で示された 「スピードと情熱」 があった。『BE THERE』はただのヒット曲ではなく、未来へと走り出す衝動を永遠に刻み込んだ、時代を超えて響き続ける疾走ソングなのだ。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。
※本記事の初出時、「3枚目のシングル」と記載していましたが、正しくは「4枚目のシングル」でした。訂正してお詫び申し上げます。