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20年前、日本中の心に沁みた“一線を画すサヨナラのバラード” 時を越えて歌い継がれる“不朽の名曲”

  • 2025.8.25

「2005年の夏、あなたはどんな風景を見ていましたか?」

蝉の声と、夕暮れに染まる空。駅前のコンビニから漏れる冷気、部活帰りの汗の匂い、そしてイヤホンから流れてきたあの曲――どこか儚く、優しく、そして背中を押してくれるようなメロディが、当時の空気にそっと溶け込んでいた。

SUPER BUTTER DOG『サヨナラCOLOR』(作詞・作曲:永積タカシ)。音楽ファンの間で既に高い評価を得ていたこのバラードは、2005年に竹中直人が監督・主演を務めた同名映画の主題歌として再び世に送り出され、スクリーンの余韻と共鳴する形で注目を集めた。静かな旋律は時を越えて受け継がれ、再び脚光を浴びることとなった。

日本でも稀有な“ガチファンクバンド”

SUPER BUTTER DOGは、1990年代後半から2000年代にかけて活動した、日本でも珍しい“本格ファンクバンド”だ

ボーカルの永積タカシ(後のハナレグミ)、ギターの竹内朋康(後にMummy-Dとのユニット「マボロシ」結成)、キーボードの池田貴史(レキシ)、ベースのTOMOHIKO(a.k.a. HEAVYLOOPER)、ドラムの沢田周一――全員が現在も音楽シーンの第一線で活動を続けており、その層の厚さは群を抜く。

彼らのサウンドは、骨太なグルーヴが持ち味。ライブでは汗と熱気が渦巻く圧倒的な演奏力で観客を踊らせる、まさに“ガチファンク”の名にふさわしい存在だった。

ファンクの熱量から一転、心に沁みるバラードへ

そんな彼らが2001年10月6日に発表した5枚目のオリジナルアルバム『grooblue』(オリジナルとしてはラストアルバムとなる)。そのラストを飾るのが『サヨナラCOLOR』だった。同年にシングルカットされ、長く愛される曲となる。

それまでのグルーヴィーなナンバーとは一線を画し、静けさと温かさが同居する、優しく心に沁みるバラード

冒頭はアコースティックギターの爪弾きが、水面に小さな波紋を広げるように柔らかく響く。そこに永積の歌声が乗った瞬間、会場やリスニングルームの空気がふっと変わる。

エレキギターはボトルネック奏法でやさしく情景をつなぎ、キーボードは全体をそっと包み込む。ベースは曲全体をしっかりと抱きしめるように支え、ドラムは静かに、しかし確かなリズムで下支えを続ける。すべての音が、歌を際立たせるためだけに存在している。

言葉の温度と間の妙

『サヨナラCOLOR』の魅力は、必要以上に音を重ねないアレンジにある。楽器の余白が、ひとつひとつの言葉を際立たせ、聴く人の胸にまっすぐ届く。

永積の歌は押し出すのではなく、そっと差し出す。歌詞の行間には深呼吸のような間があり、その静けさが言葉の温度を高める。

その声には微かなぬくもりと「大丈夫」という優しい灯りが宿っている。だからこそ、聴き終わった後も、静かな希望がじんわりと残るのだ。

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2016年、映画『海よりもまだ深く』のトークイベントに登壇した永積タカシ(ハナレグミ)(C)SANKEI

映画化で広がった共感

2005年、バンドと親交のあった竹中直人が「この曲で映画を作りたい」と熱望し、自ら監督・主演を務めた『サヨナラCOLOR』が公開される。これを機に楽曲は再びシングルとしてリリースされ、新たなファンを獲得することになる。

2003年には小泉今日子がアルバム『厚木I.C.』でカバー。2005年の再シングル以降はさらに多くのアーティストに歌い継がれ、2023年にはドラマ『パリピ孔明』(フジテレビ系)で上白石萌歌演じるヒロイン・月見英子が劇中歌としても披露している。

こうして時代や世代を超えて広がる“静かな共感の輪”が、この曲の寿命を伸ばし続けている。

時間をかけて沁み渡る曲

『サヨナラCOLOR』は瞬発力でチャートを駆け上がるタイプの曲ではない。けれど、人生のある場面でふと耳にしたとき、その人の記憶に長くとどまり続ける。

派手な起伏も、押しつけがましいメッセージもないからこそ、聴き手はそこに自分の物語を重ねられる。別れや変化を経験した誰もが、その静かな温もりに救われる瞬間があるのだ。

バンドのオリジナルアルバムの最後を飾る曲として収録されたこのバラードは、「サヨナラからはじまることがある」と紡ぐ一節に、聴く人それぞれの思いを乗せてくれる。

20年経った今も、この曲は静かに、しかし確実に、胸の奥に色を重ね続けている。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。