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25年前、日本中が痺れた"異色のアイドルソング" ジャズとHIPHOPを融合させた"革命的なグルーヴ"

  • 2025.8.11

いま振り返っても不思議な光景だ。2000年の夏。モーニング娘。から派生した3人組ユニット・プッチモニが、新メンバー体制で放った楽曲が、まさかここまで“ジャズ寄り”になるなんて、誰が予想しただろう。

プッチモニ『青春時代 1.2.3!』(作詞・作曲:つんく)――2000年7月26日リリース。

これは、5月に市井紗耶香が卒業し、新たに吉澤ひとみを迎えた3人体制(保田圭・後藤真希・吉澤ひとみ)での最初のシングル。

新メンバーのお披露目で、誰もが“フレッシュさ”を期待していた。だが鳴り響いたのは、粋でムーディーなベース、しなやかなビート、艷やかなブラス、時折きこえるバイナルのスクラッチ、そして洒脱な掛け合いだった。

計算された違和感ゼロ。つんく♂が描いた融合のかたち

この曲の構成は、明確にリズムを核に据えている。

冒頭から、ジャズファンク調のブラスとピアノが軽快に走り出す。そこへスウィング感を帯びたビートが加わり、自然と身体がリズムを刻み始める。

さらに、HIP HOPテイストのスクラッチ音やサンプリングボイスが絶妙なアクセントとして差し込まれ、サウンド全体に都会的なエッジが立つ。

その上に展開されるのが、メロディとラップによる“呼吸するような掛け合い”。パートが切り替わるたびに空気が揺れ、言葉と音が絡み合うように展開していく。

一般的に、アイドルソングにおけるラップパートは“味付け”や“余興”として扱われがちだ。

だが『青春時代 1.2.3!』においては、ラップ=フロウが曲全体のエンジンになっている。言葉のリズムと歌のグルーヴが、完全に等価に設計されているのだ。

プロデューサー・つんく♂はこの楽曲について、「ジャズとHIP HOPの融合に成功した」と語っている。

デジタルの持つ鋭さと、アナログが醸すヒューマンな揺らぎ――その両者をミックスし、「ニューヨークのクラブ・ミュージックとジャズの生演奏がセッションしている」ようなイメージで作り上げたと明かす。

もちろん、ラップという手法自体は決して新奇ではない。

だがそれを、アイドルの歌声に自然に馴染ませ、しかも違和感なく“主軸”として成立させたことが、この楽曲の静かな革新性であり、今なお再評価される理由のひとつである。

前嶋康明が仕掛けた“音の遊び場”

アレンジを担当したのは、前嶋康明。モーニング娘。名曲『サマーナイトタウン』『抱いてHOLD ON ME!』でも知られる編曲家だ。

本作では、ジャズセッションの空気感と、クラブミュージック的な反復性を絶妙なバランスで融合させている。

特に注目したいのが、ベースとリズムの「ズレ」。楽曲全体がタイトに刻まれている一方で、どこかゆらぎを感じさせる“間”がある。

それが、単なるノリでは終わらせない奥行きあるグルーヴを生み出しているのだ。

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プッチモニのメンバー・後藤真希(C)SANKEI

「ポップスでここまでリズムに寄せていいんだ」と思わせた3人の力量

歌っていたのは、保田圭・後藤真希・吉澤ひとみ。この3人のボーカルバランスがまた絶妙だった。

後藤真希は、ラップ的なパートをこなしながらも、要所で鋭いアクセントを加える。保田圭は、安定感のある中低域で全体を支え、吉澤ひとみはボーイッシュな響きで、グルーヴの輪郭を立体化させる。

結果として生まれたのは、“アイドルが音に乗る”というより、“音に遊ばせてもらってる”ような余裕感だった。

「青春」らしからぬ音作りが、むしろ“青春そのもの”だった

タイトルにある「青春時代」という言葉からは、もっと明るくストレートな応援歌を想像するかもしれない。

だがこの楽曲が描いたのは、そういう分かりやすい青春像ではない

揺れるリズム、不安定な拍、ちょっと背伸びした表現――それこそが、思春期のリアルな肌触りだった。

つまり『青春時代 1.2.3!』は、“青春”というテーマに対して、真っ向からではなく、グルーヴとアレンジで間接的に描いた一曲だった。

あの夏、私たちは「踊れるアイドル」の未来を少しだけ見ていた

2000年当時、これほど音楽的に仕掛けたアイドルソングは、ほとんどなかった。

それでもプッチモニはそれをやった。しかも、さらっと、あっけらかんと。

いま聴いてみても、そのリズム感、音の間合い、余白の使い方には、ちょっと驚かされる。

「音に酔う」感覚を、ごく自然なテンションで見せてしまった3人の実力にも改めて気づかされる。

“ノれる”とは何か。“歌える”とは何か。“青春”とは何か。

その全部を、ふざけずに、媚びずに、グルーヴで見せてくれた。


※この記事は執筆時点の情報に基づいています。