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「NHKにしては攻めたな」「生々しい…」“挑戦的な脚本”に視聴者騒然…「NHKの真骨頂」“圧倒的作品力”で魅せた至高ドラマ

  • 2025.8.2

ドラマや映画の中には、人生を見つめ直すきっかけをくれる作品があります。今回は、そんな中から"心に問いかけられる名作"を5本セレクトしました。本記事ではその第1弾として、ドラマ『恋せぬふたり』(NHK総合)をご紹介します。恋愛も性愛も望まない二人が、世間の“当たり前”に縛られず、新しい家族のかたちを模索する――。「自分にとっての幸せとは何か」を考えさせられる話題作です。

※本記事は、筆者個人の感想をもとに作品選定・制作された記事です
※一部、ストーリーや役柄に関するネタバレを含みます

あらすじ

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岸井ゆきの(C)SANKEI
  • 作品名(放送局):ドラマ『恋せぬふたり』(NHK総合)
  • 放送期間:2022年1月10日~2022年3月21日
  • 出演:岸井ゆきの(兒玉咲子 役)

恋愛に心が動かないまま大人になった咲子(岸井ゆきの)は、なぜ人はキスをするのかすら分からないまま日々を過ごしていました。そんな彼女の前に現れたのは、同じように恋愛もセックスも望まない羽(高橋一生)。

恋人でも夫婦でも、血のつながった家族でもない――。
二人が選んだのは、世間の“当たり前”に縛られない同居生活でした。

理解できない家族、恋愛至上主義の上司、元カレ、そして近所の人々を巻き込みながら、二人は“新しい家族のかたち”を模索しはじめます――。

「幸せは恋愛や結婚だけ?」恋愛至上主義に挑んだ話題作

『恋せぬふたり』の脚本を手がけたのは、NHKの朝ドラ『虎に翼』などを執筆した吉田恵里香さんです。これまで数々の恋愛ドラマ作品も手掛けてきた吉田さんが、本作ではあえて「恋愛や結婚は幸せの絶対条件なのか」という問いに挑み、恋愛至上主義に揺さぶりをかける物語を作り上げました。この挑戦が高く評価され、第40回 向田邦子賞を受賞しています。

企画を担当した押田友太さんは、今作の制作にあたり目指したことについて、NHKわたしごとstory内にて次のように語っています。

私たちが目指したいのは、自分の本音を隠して、他人に合わせて生きていくのではなく「自分の感情に嘘をつかずに生きていく」、他人にとやかく言われる幸せではなく、「自分の幸せは自分で決める」そんな勇気を与えられるドラマとして最終的に着地したいと思っています。出典:ドラマ「恋せぬふたり」が生まれた理由(NHKわたしごとstory)2022年02月03日

主演は岸井ゆきのさんと高橋一生さん。恋愛感情を抱けない女性・咲子役を岸井さんが、そして同じように恋愛も体の関係も望まない羽役を高橋さんが演じています。二人の息の合った掛け合いと、台詞に頼らずとも感情が伝わる繊細な表現が、多くの視聴者の心をつかみました。

二人が見つけた“家族”のかたち

『恋せぬふたり』は、日本の連続ドラマとしてはほぼ初めて、アロマンティック・アセクシュアルをメインテーマに描いた作品です。アロマンティックは恋愛感情を抱かないこと、アセクシュアルは性的に惹かれないことを指し、両方に当てはまる人をアロマンティック・アセクシュアルと呼びます。

放送当時、SNSでは「攻めたドラマ」と大きな話題になりました。恋愛や性愛を前提としない二人が、共に暮らしながら新しい“家族”のかたちを模索する物語は、「恋愛するのが当たり前」という社会の価値観に一石を投じたからです。NHKが「ラブではないコメディ」と銘打ったことからも、そのユニークさがうかがえます。

放送後には「こんな生き方があるなんて知らなかった」といった声が寄せられ、当事者からも「アロマンティック・アセクシュアルをもっと知ってほしい」というコメントが届きました。これまで光が当たりにくかったセクシュアルマイノリティを真正面から描き、多様な愛や家族のあり方について考えるきっかけを与えてくれた作品です。

脚本と演出のすり合わせに込められた想い

『恋せぬふたり』の制作には、アロマンティック・アセクシュアルの当事者を含む考証チームが加わりました。専門用語の確認にとどまらず、キャラクターの言動や細かな設定まで助言し、より自然で誠実な描写を目指したといいます。

たとえば第4回、咲子の元彼・カズが高橋に恋愛や性的な話題を振る場面。当初は、咲子が「失礼なことを言うのはやめて」と止める予定でしたが、考証チームから「恋愛や性愛が分からない彼女がこうした判断をするのは不自然」と指摘が入り、「高橋さんが困っている様子だからやめて」というセリフに修正されました。

制作過程では、「恋愛や性愛がわかっていないと出てこない言葉」の洗い出しや、どこからが恋愛・性的と見なされるのかといった判断ライン、キャラクターの振る舞いなど、脚本や演出チームとの綿密な擦り合わせがあったといいます。さらに、嫌悪感を抱く対象や人との距離感を確認するために、約50問もの質問が投げかけられ、細部まで設定が練られました。

こうした背景からも、NHKがこのテーマにどれほど真摯に向き合ったかが伝わってきます。

「こういう関係性、尊い」視聴者が見出した新しい絆

制作の裏側で丁寧な調整が重ねられた一方、放送後のSNSにはさまざまな声が寄せられました。

「無自覚な傲慢さがリアルすぎて怒りで爆発しそう」「痛いほど分かる」といった声もあれば、「恋愛ってそんなに大事?」と疑問を投げかける声や、「恋しない同士なら家族になれるのでは」という新しい関係性に希望を感じるコメントも。さらに、「NHKにしては攻めたな」「生々しい…」と驚く声や、「さすがNHK」「アロマンティック・アセクシュアルを扱ってくれたNHKに感謝」「恋愛要素がないのに面白い稀なドラマ」「こういう関係性、尊い」といった称賛の声も多く寄せられました。

高橋一生さんの繊細な演技に心を動かされたという声も多く、名言が多いドラマとして評価されています。賛否はありつつも、『恋せぬふたり』は恋愛や性愛を前提としない生き方に光を当て、「自分にとっての幸せとは何か」を問いかける、心に響く名作です。


※記事は執筆時点の情報です